2004年1月号(通巻178号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<トレンドレポート>

「携帯電話のようなホーム・フォン」で攻勢に出る
 欧州の固定電話会社

 最近携帯電話の利用者は、固定電話の設置してある自宅にいる時でさえ携帯電話を使用することが多く、固定電話は埃をかぶっている家庭が少なくない。固定電話会社は、このような傾向がさらに強まれば、多くの利用者が固定電話は不必要な出費とみなすのではないかと心配している。一方携帯電話は、カラー・スクリーンや多くの新サービスの登場により便利でエキサイティングになり、利用者は益々固定電話から遠ざかりつつある。このようなトレンドに危機意識をつのらせた欧州の固定電話会社はようやく反撃に転じ始めた。通信網を高度化し、2004年には最新の携帯電話機に匹敵する新たなホーム・フォンを導入して固定通信市場の縮小に歯止めをかけたいと狙っている、とフィナンシャル・タイムズ紙が報じている(注)

(注)Home phones enter the age of the mobile(Financial Times online / December 10 2003)

■「携帯電話のようなホーム・フォン」

 現在、多くの国では固定電話の利用者はテキストの送受が可能である。しかし、数ヵ月後には固定電話で着信音のダウンロードや、携帯端末のアドレス帳からのデータ転送それにカラーの画像伝送なども出来るようになる。「移動通信で出来ることで固定通信に出来ないことはない。誰が固定電話は退屈だなどと言ったのか。固定電話は携帯電話と同じぐらいエキサイティングになるだろう。」とテレコム・イタリアのRuggerio CEOは言っている。さらに彼は「我々は基本的に固定電話の新サービスの普及率は、現在5%以下であるという前提から出発した。今後数年間で、目覚ましサービスやテキスト・メッセージングなどの新サービスの普及率を20〜30%に高めたい。」と語っている。

 テレコム・イタリアは、新サービスの導入によって利用者の固定電話に対する親密度を高め、1世帯当りの平均収入を高めることが出来ると確信している。しかし、その最も重要な狙いは、携帯電話に奪われた自宅から発着する通話のシェアを高めることにある。テレコム・イタリアによると携帯電話の通信の4分の3は自宅を含む建物の中で行われているという。固定電話の端末でもっと簡単に電話番号を蓄積しアクセスできれば、音声通信の携帯電話移行に歯止めを掛けられると同社は確信している。

 BTも同様な狙いを持っている。自分が利用している携帯電話のSIMカードを挿入し、そのコンタクト・リストをアップロードできる住宅向けカラー・ディスプレィ付き電話機を2004年4月に導入する予定である。固定通信会社は、固定電話の利用が減少している主な理由を、大部分の固定電話機が持っている番号蓄積能力の制約と使いにくさにあると確信している。

 欧州の固定通信会社は、移動通信に通話を奪われ通信分数が減少する事態に直面して、端末の機能が戦略的優位に大きな役割を果すことに気がついた。携帯電話の普及率向上に、カラー・ディスプレィとカメラ付き携帯電話機など端末の機能向上が益々重要になりつつあることはよく知られている。

■画像メッセージングに期待

 固定通信会社は、固定電話機の機能に画像メッセージング機能を追加し、携帯電話に傾きつつあるこの種トラフィックの成長をシェアしたいと考えている。電話をかけてくる人ごとに違った着信画面を固定電話機に表示でき、また、友人や家族ごとに異なる着信音を選択できる。贔屓のフットボール・チームが得点した画面を固定電話機でダウンロードできるサービスとか、天気予報や星占い付きの朝の目覚ましコール・サービスなども検討している。

 フランス・テレコム・グループはパリ、リヨンおよびツールーズで、移動および固定電話間のビデオ通信の実験を開始することで一歩先んじようとしている。移動通信会社がライブ・ビデオ通信のできる第3世代携帯電話の導入を開始するのに呼応して、フランス・テレコムは最新の携帯電話と完全に相互接続可能な固定電話を導入したい意向である。一方、テレコム・イタリアは最初のビデオ・フォンを2004年2月に導入する計画だ。両社とも、ビデオ・コールは若い世代だけでなく、働いている時でもわが子に「お休みなさい」コールをしたい「不在の親(absent parent)」市場にアッピールすることを期待して、ビデオ・コールにプレミアム料金を設定することを狙っている。

 これまでのところ、新サービスを契約した人の通信利用は増加しており有望とみられている。BTの住宅用通信部門のマーケティング責任者によると、テキスト・メッセージングが可能なホーム・フォンの典型的な利用者は1ヵ月に12通を送信しており、利用は増加の傾向にあるという。固定通信会社の課題は最新の電話端末を如何に普及させるかである。BTの調査によると、コードレス・ホーム・フォンは4〜6年で新機種に取り替えられるケースが多いが、モバイル・フォンでは大体2年ごとに新機種に変わっている。このように固定電話端末の高級機種への乗り換えサイクルが長いことは、固定通信会社が新サービスの導入を開始してから有意な収入の改善の成果を経験するまで、数年間かかるかも知れないことを意味している。

 価格もまた重要な要素になるだろうという。フランスのカラー・ディスプレィ付き電話機は100ユーロ(1万3,000円)、最初のビデオ・フォンは200ユーロ(2万6,000円)もしくはそれ以上になると見られている。BTの最初のカラ−・ディスプレィ付き電話機は100ポンド(1万8,800円)で発売される。確かに、この値段でも欲しいという顧客はいるだろうが、短期間に普及率を高めたければ値段をもっと下げる必要があることを固定通信会社は認めている。問題は通信会社がそうしたくても、販売を促進するための端末に対する価格補助を、規制当局が阻止することだという。

■テレコム・イタリアの野心

 しかし、テレコム・イタリアにはその隣接諸国よりもより強い野心を抱いているようだ。同社は今後数年間で、少なくても固定回線ユーザーの半分を各種新端末の一つにアップグレードすることを狙っている。テレコム・イタリアの顧客の80%以上がそのホーム・フォンを同社からレンタルしているが、これは近隣諸国(フランスは3分の1、英国はそれよりさらに少ない)と比べ大きな利点である。同社の顧客が支払うホーム・フォンのレンタル費用は月額2ユーロ(260円)で、テレコム・イタリアはこのレンタル費用を増加させることなく顧客にアップグレードされた最新端末を提供できると考え ているからだ。

 テレコム・イタリアのRuggiero CEOは次のように語っている。「これが端末をアップグレードし益々機能を充実させるための戦略の第一歩である。数年前は固定通信市場の成長について語ることなどは考えられなかった。誰もが市場の縮退を予測していた。成長率は低いかもしれないが、固定通信市場は成長するというのが我々の見方だ。」ところで、テレコム・イタリアに「携帯電話のような固定回線端末」を供給するのは、サムスン、LGエレクトロニクスなどの韓国や中国、シンガポールのメーカーだという。2ユーロのレンタル料金で提供できる端末の購入価格は100ユーロ以下で、これに対応できるのは現時点ではアジア系メーカーだけだからだ。

 携帯電話機の機能を固定回線の電話端末に取り入れて利用を促進し、固定通信市場の成長を目指すという発想は理解できなくもないが、現実に成功するかどうかは良く分からない。しかし、携帯電話市場の成長は、携帯端末の絶え間ないアップグレード競争が成長を支えた一つの要因であったことは確かだ。固定通信ではパソコンに目を奪われ、電話端末の高機能化と低価格化に遅れをとったのは事実ではないか。NTT東西のLモード端末の高価格がそれを示している。固定通信の将来がブロードバンドとIP通信にかかっているとしても、現実に収入の過半をあげているレガシー・システム(電話網)の活用に、もっと関心が払われてもよいのではないか。

特別研究員 本間 雅雄
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