2003年12月号(通巻177号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<トレンドレポート>

欧米におけるMVNOの最新動向

 MVNO(Mobile Virtual Network Operator)の 英国のバージン・モバイル(バージン・グループとT−モバイルの折半出資会社)は、去る2003年11月5日に第3四半期の加入者増が27万を記録し、累計加入数も9月末で314万となったと発表した。同社によると、これは昨年のクリスマス商戦以降における最大の加入者増で、英国市場におけるシェアも6.1%(推定)となり、英国の携帯電話事業における最も成長率の高い企業としての地位を確かなものとしたとしている。1999年に事業を開始して以来苦難の途をたどったバージン・モバイルの再販ベースの携帯電話事業(MVNO)も、ここにきてようやく市場に定着したのではないかと見られている。バージン・モバイルをはじめとする欧米のMVNOの最新動向を報告する。

バージン・モバイルの成長戦略

 バージン・モバイルの2003年1〜9月の売上高は3億900万ポンド(572億円;1ポンド=185円)、営業利益は5,900万ポンド(106億円)、EBITDA(利子、税金、減価償却費等控除前利益)は6,700万ポンド(124億円)、EBITDAマージンは21.7%だった。同社の第3四半期における加入者増27万(対前年同期比56%の増加)は、オレンジUKの11.3万の倍以上にあたる。同社の発表によると、同社の2003年の上半期における加入者の純増数は、オレンジ、mmO2、「3」、T−モバイル、とボーダフォンの合計を上回ったという(注)

(注)Virgin Mobile reports record UK growth(Financial Times online / November 5, 2003)

 バージン・モバイルの急成長はそのブランド力と料金戦略(注)にある。同社はT−モバイルUKのGSMネットワークの容量を卸売で購入し、プリペイド・モバイル・サービスを再販ベースで提供している。現在まで、レコードなどを販売するバージン・メガストア内にバージン・モバイルの専門店を92店開設し、親会社のブランド力をフルに活用しているが、今後もこの店舗内店舗を増やし販売を強化する予定だ。

 料金は極めて単純で基本料金もピーク、オフピークの区分もない。同社の料金プランの「売り」は、バージン・モバイルの加入者相互の英国内通話は、毎日最初の通話5分間は1分間15ペンス(27円)で、その後は1分間5ペンス(9円)、テキスト・メッセージは1通3ペンス(5円)などである。バージンのウェブにアクセスしてショッピングや各種情報をダウンロードするサービスVirginXtrasは1分間20〜35ペンス(37〜65円)、着信音は1分間1.5ポンド(280円)なども好評のようだ。

(注)バージン・モバイルUKのキャンペーン用キャッチフレーズは「We’re different」である。

 同社の説明によると、とくに第3四半期の加入者の増加に寄与したのは、1通3ペンスのテキスト・メッセージと他社に奪われそうになった加入者を引き止めるために提供する5ポンド(925円)のエアタイム・バウチャー(クーポン券)だったようだ。さらに、2003年10月には画期的な顧客報奨制度「Glue」(接着剤)を開始した。これは同社の顧客が友人や家族をバージン・モバイルに紹介したら、1件につき10ポンド(1,850円)相当の通信分数を提供する(年間8件まで)というものだ。

 バージン・モバイルUKの経営責任者は、移動通信産業は今後数年間に見込まれる料金低下の影響を緩和するため、モバイル・インターネットの利用を増やす必要があり、メディア・コンテントへの出費を増やすことを余儀なくされ、今後利益が圧迫されるかも知れないと語っている。同社の2004年の目標は売上高6億ポンド(1,110億円)、2004年末の加入数450万、EBITDAマージンは20〜25%としている。また、同社とT−モバイルUKとの関係も改善されつつあり、訴訟(注)についても解決が期待できるとしている。

(注)バージン・グループとT−モバイルとの間に収入の取分について争いがあり、2003年の初めにT−モバイルUKが自社に有利となるよう恣意的に着信料を決めているという裁判所の判決があった。これを受けてバージン側は3月に、折半  の合弁会社であるバージン・モバイルからT−モバイルの排除を求める訴訟を提起していた。

 バージン・グループはまた、米国におけるバージン・モバイルUSAのMVNO加入者が事業開始(2002年7月)後5四半期で100万を超えたことを明らかにした。特に、4月以降の2四半期における加入増が50万だった。バージン・モバイルUSAのネットワーク・パートナーはスプリントPCSである。バージンの経営責任者によると、英国やオーストラリアのMVNO事業が黒字化を達成したのは事業開始後3年だったが、米国事業はそれよりも早く黒字にできる見通しだという。同社はその急成長の理由を、単純な料金の仕組み(注1)、良質な顧客サービス、広範な販売店舗の展開にあると説明している。同社によると顧客解約率は、米国における最低率か最低のグループに属するという。同社の顧客は30歳以下が70%を占め、ほぼ狙い通りだった(注2)

(注1)毎日最初の通話10分間は1分間25セント(27円)、その後は1分間10セント(11円)。

(注2)調査会社のガートナーによると、米国におけるプリペイド加入数は2002年末に950万(携帯電話加入数1億4,100万の6.7%)だった。2003年末には1,170万(同1億5,400万の7.6%)に増加するが、長期的には加入数の20%を超えることはないと予測している。(Why I’m hooked on Virgin Mobile:BusinessWeek online / November 11,2003)

 また同社は、5番目に投入する携帯電話端末、京セラ製の「Slider T5 MTV Edition」に期待を寄せている。この端末はcdma2000 1x RTTのネットワークに対応し、カラー・スクリーンでアニメーションによる着信番号表示、BREWを使ったゲームやGPSを利用した位置情報サービスが提供可能だ。さらに、シングル・ボタンでゲームやオーディオ・ポストカードなどのMTVのコンテントにアクセスできる。一方、ネットワーク上で対戦するゲームやワイヤレス・ウェブ・アクセスなどには注力していない。この戦略はターゲットとした(若年)顧客層の懐具合との兼ね合いで決定されたという。「我々は最新技術によって顧客を惹きつけることを狙わない。価格が下がり顧客が誰でも利用できるようになれば、その機能を取り入れていく。」というのが同社の考え方である。

 しかし、同社が売り出す京セラ製端末「Slider T5 MTV Edition」は159ドル(17,300円)と高めである。これは同社が、顧客に端末の購入補助金を出さない、契約で顧客を縛りつける(ロック)ことはしないという方針をとっているからだ。同社の課題は、顧客の60%はテキスト・メッセージング(VirginXtras)を利用しており、収入の約40%がVirginXtrasおよびMTVのコンテントとサービスの売上げで占められているが、今後短・中期的な展望では、同社はデータ通信重視の戦略にさらにシフトすることが必要である、とヤンキー・グループは指摘している(注)

(注)Virgin Mobile USA hits 1m users,launches MTV phone(totaltele.com / 04 November 2003)

 バージン・グループのブランソン議長は、2003年11月5日にニューヨークでバージン・モバイルUSAの加入数が100万を突破したことで記者会見に臨み、今後南アフリカ、カナダ、中国およびインドを含む多数の国々にMVNOモデルで進出する計画を検討していることを明らかにした(注)

(注)Virgin in talks over mobile network expansion(totaltele.com / Reuters,05 November 2003)

 参入が相次ぐ欧州のMVNO 欧州ではスーパー・マーケットやチェーン・ストアなどによるMVNO市場への参入が相次いでいる。しかし、ゼロからスタートしたバージン・モデルが成功したのは、移動通信市場が成長途上にあったからで、市場が成熟期にある現時点ではこのモデルでは成功が難しい。しかし、欧州市場における高い解約率(年間20%超)を考慮すれば、やり方(買収、提携、アウトソーシングの活用、データ通信に特化するなど)によっては、ニッチ市場での成功のチャンスは十分あると期待しているようだ。

 2003年5月には、携帯電話機とサービスの販売代理店大手のカーフォーン・ウエアハウス(Carphone Warehouse)・グループ(英国)がドイツのMVNO(Hutchison Telecommunications GmbH、加入数67万、うち51万はポストペイド加入者)を買収(4,680万ポンド)してドイツ市場に参入した。2002年末にプリペイド・モバイル・サービス「Hello」で市場に参入したノルウェーの小売チェーンのライタン(Reitan)・グループは、オスローを本拠とするMVNO(Sense Communications、スェーデンの27,000を含む約20万の加入数)を買収(3,900万ユーロ)し事業を補強した。

 6月にはミュージック・チャンネルのMTVが、スエーデンでテリア・ソネラのGSMネットワークの容量を購入してプリペイド・モバイル・サービスに参入した。MTVブランドのプリペイドSIMカードでモバイル・データと音声をバンドルしたサービスを提供し、若者(14〜19歳)向け市場を狙う。MTVスエーデンは全ての顧客管理業務、SIMプラットフォームのホスティングとオペレーションをストックホルムに本拠のあるSpinbox ABにアウトソースしている。MTVのこれまでのエンド・ユーザーとのコミュニケーションは片方向だったが、モバイル・サービスへの参入でデジタル・チャンネルを確保し、双方向の特性を本業に生かしたい意向である。だから、着信音のダウンロード、人気スターのインタヴュー、音楽情報と番付などのデータ・サービスがメインで、音声は二次的なサービスという位置付けとなっている。Spinboxは携帯電話機小売のFreetel ABとも契約し、音声とデータをバンドルしたサービスを携帯電話機とセットで中小企業向けに提供する事業を受託している。

 英国のスーパー・マーケット大手のテスコ(Tesco)がmmO2と折半で合弁会社を設立してMVNOに参入する計画を6月に明らかにした。両社は今後2年間に夫々1,300万ドルを投資する。テスコ・ブランドのプリペイド・サービスはクリマス商戦に間に合わせる予定である。この計画はバージン・モデルを踏襲しているが、低料金を武器に成熟化した英国の携帯電話市場における加入者移動を増加させ、契約を獲得する作戦を考えている。因みに、テスコは事業の多角化に積極的で、1999年に始めた個人金融サービスは400万の顧客を擁している。テスコの競争相手のアスダ(Asda)は、自社の顧客向けにケーブル&ワイヤレス(C&W)と提携して再販ベースの固定通信サービスを提供しているが、モバイル・サービスの提供も計画しており英国の移動通信会社と提携する予定である(注)

(注)MVNOs get some retail therapy(Total Telecom Magazine / July 2003)

 スエーデンの移動通信会社Tele2は、デンマーク、オーストリア、オランダでは交換設備、料金請求と業務支援システムを自ら所有してMVNO事業を行っているが、ノルウェー、スイスでは単純な再販ベースでMVNO事業を展開している。Total Telecom誌(注)は前者を「full-blown MVNO」、後者を「MVNO-lite」と呼んで区分しているが、市場の特性に応じてMVNOの在り方を変化させているケースである。

(注)Home but not alone (Total Telecom Magazine / September 2003)

BTは移動通信市場にMVNOで再参入

英国の固定通信会社であるBTは、テレコム・バブル期に累増した債務の軽減を図るため2年前に移動通信部門のmmO2を(資本)分離して固定通信分野に特化する途を選択したが、市場における競争力を強化するため固定通信と移動通信の融合型サービス(注)の提供は不可欠として、MVNOによって移動通信市場に再参入することを決めた。

(注)BTが2004年に導入を計画している固定/移動融合型サービス「ブルーフォン」については、「BTのFMCブルーフォン・プロジェクト」林 美彌子(本ニューズレター 9ページ)参照

 その具体的なサービスが「BT・モバイル・ホーム・プラン」のネーミングで2003年10月30日に発表された。家庭とSOHO(Small Office Home Office)顧客を狙ったパッケージ・サービスで、利用者は同一契約で6台までの端末を持つことができる。このプランは家族の利用に割安なサービスを提供するとともに、固定回線を経由して家庭に着信する場合の無料通話が含まれている。本格的な商用サービスは11月1日から開始され、全英の1,000以上の直営店および代理店で取り扱う。カーフォン・ウエアハウスなどの大手の携帯電話販売代理店でも取り扱う予定である。

 「BT・モバイル・ホーム・プラン」を推進するBT小売部門の経営責任者は、「このサービスの導入にともなう本通り(high-street)の店舗での営業活動の規模は、コンシューマー向け移動通信市場への再参入に対する我々の意思が如何に強固であるかを示している。」と語っている。存在感のある電気通信会社として事業を継続していくためには、モバイルは不可欠なサービス・メニューの一つであることを実感したということだろう。

 「モバイル・ホーム・プラン」の導入に当ってBTは、12月末までの契約分については端末の無料提供と3ヶ月の基本料免除をキャンペーンしているが、通常料金は最初の端末の基本料が12.5ポンド(2,250円)/月で、同一契約による他の5台までの基本料は夫々10ポンド(1,800円)/月である。この他、SIMだけのオプションは最初の一つは7.5ポンド/月で、二つ目以降は5ポンド/月で提供する。

 BTは「モバイル・ホーム・プラン」で移動通信事業に2年ぶりにMVNOとして再参入することになったが、分離した移動通信部門のmmO2ではなく、ライバルだったT−モバイルUKのネットワークを利用する。またBTは、利用者の携帯電話機にゲームや着信音などをダウンロードできる「infotainment」サービス「BT モバイル・ワールド」を2004年に開始すると発表した。さらに2004年の早期に、利用者は携帯電話機から発信するよりも安い料金で、固定電話回線からテキスト・ メッセージを送信することができる「BTテキスト」を開始し、固定電話に移動通信の機能性を付加する予定である。

 「モバイル・ホーム・プラン」の顧客からの注文を処理するため、BTは米国を本拠とするVitria社の「BisinessWare」ビジネス・プロセス統合プラットフォームを導入する。このシステムは1時間に500の注文を正確に処理する能力を有しているだけでなく、多くのBTの内部システムやT−モバイル、販売代理店のシステムと接続して顧客からの注文を管理する。BTが移動通信再参入に如何に真剣に取り組んでいるかが窺われる(注)

(注)BT returns to mobile with a fanfare (Totaltele.com / 30 October 2003)

MVNOに未来はあるか

 確立したブランド力を背景に成長期の市場に参入して、携帯電話会社と付加価値サービス・プロバイダーの双方に利益をもたらし成功したバージン・モバイルのビジネス・モデルは、市場の成熟化にともなって期待できない状況になってきた。しかし、MVNOにまったくチャンスがないということではないだろう。どういう状況なら存続可能なのか。

 BTだけでなく、AT&Tもワイヤレスをバンドルもしくは融合したサービスを提供するため、(資本)分離したAT&Tワイヤレスの移動網を利用し、MVNOに進出する計画を進めている。近く破産から再生復活するMCI(旧ワールドコム)も同様の構想を検討中という。大手の通信会社でも、固定通信だけでは顧客の要望に応えることができないことがはっきりしてきたからだ。固定通信と移動通信の融合型サービスが今後の一つの方向ではないか。

 次に、移動通信事業者がニッチ市場を含め、あらゆる層の加入者に垂直統合型サービスを開発し提供していくのが現実的かという問題である。とくに、今後移動通信事業者の統合・合併が不可避と思われる欧米の市場では、巨大化する移動体事業者が自らニッチ市場に進出するよりは、卸売りのトラフィックでネットワークの容量をいっぱいにする方が、はるかに経済的に意味があるとTotal Telecom誌(注)は指摘している。とくに、今後確実に増加するデータ・サービスについては、アプリケーションの良し悪しがその成否を左右する場合が多く、MVNOと役割分担する方が合理的ではないか。もちろん、MVNOがニッチ市場で如何なる付加価値を顧客に提供できるかが決め手になることは言うまでもない。

(注)前掲Total Telecom Magazine / September 2003 米国のアナリストは移動通信会社の売上げに占める卸売サービスの比率は、今後急激に高まると予測している。例えば、スプリントPCSの卸売りサービスは2003年の5%未満から2004年には15〜20%に高まる見通しだ。バージン・モバイルのほか提携しているクエスト・コミュニケーションズの移動通信再販事業の加入数が2004年には100万を超えると見込まれているからだ。(Making the case for Sprint PCS /   BusinessWeek online,11/11 2003

特別研究員 本間 雅雄
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