2003年12月号(通巻177号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:政策・規制>

WLNP(ワイヤレス・ローカル・番号ポータビリティ) 、米国で導入

 この数年間検討が続けられてきた米国のナンバーポータビリティが2003年11月24日に導入された。米国連邦通信委員会(FCC)が事業者に対し、大都市にあたる100地域でワイヤレス・ローカル・ナンバー・ポータビリティ(Wireless Local Number Portability:WLNP)を施行しなければならないと命じたため、事業者はこれを守らざるを得なくなった。本稿では米国でのWLNP導入とその影響についてまとめる。

 米国でのWLNP導入を巡り、2001年11月、ベライゾン・ワイヤレスはFCCの通信法の法的解釈に誤りがあるとして、導入命令を撤回する請願をFCCに提出した。ほとんどの事業者はベライゾン・ワイヤレスの請願を支持していた。しかし、FCCをはじめ、各州規制機関はこの請願を認めず、当初予定していた2002年11月24日から導入時期を1年延期し、遂に導入に至った。各事業者が更なる延期を期待しており、導入準備がFCCにより決められた2003年11月24日に間に合わないのではないかとの見方もあったが、2003年10月にFCCのマイケル・パウエル議長により期限を守れない事業者には罰金を課すとの発表がなされたため、事業者は番号を相互にポーティングすることに合意した。携帯電話間でナンバー・ポーティングする場合、欧州各国などでは一般的にはSIMロックを解除すれば同じ携帯電話機を利用できるが、米国では事業者や地域により異なる方式が使われているため、一般的にはポーティング後は同じ携帯電話機を使うことができない。

 米国はダイレクト・ルーティング方式を採用し、8つのエリアに分けた各地域ごとにナンバー・ポータビリティ管理センターを設置している。事業者は共通データベースの設置や顧客サービス・スタッフの研修などWLNP導入に際しては多大な費用を要し、顧客が他の事業者へ流出することを防ぐために料金プランの値下げ等、顧客にとってメリットのあるサービスを取り入れなければならず、WLNPの導入により事業者が受ける利益について疑問視している。費用を回収する手段の1つとして、FCCは各事業者がナンバー・ポーティング費用を顧客に課すことを認めているが、いくつかの事業者はポーティング費用に関する問題について検討しているものの、ポーティング料金についての詳細を発表している事業者はいない。一方、主に中西部の主要都市でサービスを提供しているUSセルラー・コープ・シカゴの社長兼CEOのジャック・ルーニー氏は、「標準料金」を設けるかもしれないとコメントしていた。同氏によれば、標準料金を課す場合は他事業者へナンバー・ポーティングをした顧客が再び同社に戻ってきた時にはその料金は返還するだろうとのことであった。しかし、サービスが開始となった現在も、「料金を課す」との正式発表はない。もし一部の事業者が顧客に対してポーティング料金を課せば、料金を課さない他の事業者と比較され、顧客にマイナス・イメージを与えかねないため、ほとんどの事業者は顧客に対してポーティング料金を課していないと思われる。

 FCCが発表したガイドラインによると、ポーティングの手続きに要する時間については、2時間半以内に完了することが望ましいとしている。これは、既にナンバー・ポータビリティを導入しているどの国よりも短い時間である。現時点では義務とはされていないが、手続きに要する時間があまりにも長く、利用者からのクレームが多ければ再検討される模様である。また、同ガイドラインでは、ポーティングの申請があった場合、事業者は拒否することができないことも定められており、現在の契約 で未払い料金があったとしてもポーティングに応じなければならないことになる。

 米国でのWLNPは欧州などのナンバー・ポータビリティと異なり、携帯電話間のみでなく、携帯電話と固定電話の間でもナンバー・ポーティングが可能である。固定電話の場合、その番号が携帯電話事業者の地域通話エリア内のものでなければならないという条件があるものの、携帯電話間のポータビリティが導入された2003年11月24日には、携帯・固定間のポータビリティも利用できるようになった。ただし、ポーティングには現在の固定電話間のポータビリティと同じ4日間はかかると見られている。

○WLNPは利用されるのか

 今回のWLNP導入に先立っていくつかの調査会社が携帯電話利用者に対する調査を実施しているが、それらの調査により、多くの人々がWLNPを利用する意向があるとの結果が明らかになった。TMNGが行った市場調査(有効回答数約1,000)によると730万人の携帯電話加入者がWLNP導入日にポーティングする意向を持っており、固定電話加入者の60%にあたる約900万人が携帯電話への固定電話番号ポーティングを希望しているとの結果が出た。一方、In-Stat/MDRによれば、導入後最初の1年で2,200万の加入者がWLNPを利用して事業者を替え、2004年の年間チャーン率は49%にもなるという。

 導入日のサービス利用状況は、事業者によって差はあるものの、まずまずのようである。ベライゾン・ワイヤレスのジェフリー・ネルソン氏によると、11月24日の来客者数は11月の通常の月曜日の2倍から4倍だったという。また、T−モバイルUSAのブライアン・ザイダー氏は電話による問い合わせは通常の月曜日の4倍であったとコメントしている。

 今後も導入日と同程度の利用が続き、前述の調査結果が現実となれば、携帯電話各社は顧客の流出を防ぎ、他事業者からの顧客を獲得するために更に激しい競争を強いられる。サービスの内容やその品質はもちろん、新しい携帯電話機を購入しなければならない顧客のために携帯電話機の価格割引も予想される。先にナンバー・ポータビリティを導入している欧州などでは、市場シェアが高い事業者が顧客を失い、比較的市場シェアが低い事業者が顧客を獲得する傾向にある。一方、米国の事業者の場合、顧客に対するサービス品質の差が徐々に拡がりつつあるのが現状であり、これまで番号を変えたくないために比較的サービス品質の低い事業者のサービスを受けていた顧客はWLNP導入を機に、より良いサービスを提供している事業者へチャーンすることが予測される。事業者にとって、顧客を増やし、利益を得るために如何に顧客重視のサービスを提供できるかが今後の鍵となるであろう。他方、固定電話事業者は携帯電話事業者よりも更に厳しい状況に立たされる。顧客を引き止めることのできるサービスを新たに考え出さなければ、顧客が携帯電話事業者へのチャーンを図り、現在よりも更に苦しい状況に立たされることは間違いない。いずれにせよ、WLNPの導入により、FCCが目指す消費者への選択肢供与と市場の競争促進が達成され、利用者にとっては望ましい環境になるだろう。

移動パーソナル通信研究グループ
リサーチャー 武井 ともみ

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