2003年9月号(通巻174号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:移動通信サービス>

サムスン、地上波テレビ放送を受信する携帯電話を市場投入

 2003年6月にサムスンが発表した、地上波テレビ放送(VHF/UHF)を受信できる携帯電話が、7月に韓国で発売された。携帯電話でのテレビ視聴は、ユーザーにとっては携帯電話の利用範囲が広がることを意味するが、地上波テレビ受信端末での視聴は、ユーザーとして満足の行く水準にはほど遠い。

 サムスン製「SCH-X820」はSKテレコムから提供されている。この端末では2から69チャンネルまで対応(日本とは帯域の割当が異なる)しており、韓国で放送している地上局(KBS(日本ではNHKに相当)、MBC、SBS等)を受信可能である。「SCH-X820」はアナログ放送対応であり、デジタル放送には対応していない。韓国ではデジタル放送もすでに開始されており、徐々に移行が進んでいるが、現状ではアナログ放送が主流である。なお、cdma2000 1x EV−DO(以後EV−DOと表記)には対応していない。

 アンテナについては、通常のアンテナとは別に、付け替え用としてテレビ受信向きの太いアンテナが販売パッケージに付属している。画面表示は縦横を切り替えることができる。またテレビ放送画面を最大50フレームまでキャプチャーすることができるが、動画として端末に取り込むことはできない。7月末時点での実勢価格は、新規加入の場合62万ウォン(約62,000円)程度である。

 サムスンはすでに2000年に、地上波テレビを受信できる携帯電話機「SCH-M220」を発売したが、少ロットしか生産されず、広く市場に出回ることはなかった。この機種は厚さが36mmもあり、電池無しの状態で160gと現在の携帯電話機よりもかなり重い。

 通信事業者にとって、こうした携帯電話機の魅力向上はユーザーの獲得および維持に貢献すると思われるが、テレビの視聴によって通信料を稼げないという点で厄介である。韓国では、これまでもEV−DO上でのコンテンツ・サービスであるSKTの「June」、KTFの「Fimm」においてテレビを視聴できたが、この場合はパケット方式によるデータ通信を用いており、パケット通信料金が必要である。一方、「SCH-X820」の場合はテレビ放送波を直接受信するため、通信料は不要である。

 果たして、TV付携帯電話の登場は、先端的ユーザーの使用パケット量を減らすことになるのであろうか。EV−DO対応機購入希望の人が、テレビ受信機購入に切り替える可能性はあるのだろうか。現地で実際に使ってみた感想をもとに言えば、その可能性はさほど大きくないと思われる。

 その理由として、以下のポイントを挙げたい。

(1) 画像のクリアさ
現状のアナログ放送受信端末では、クリアな画像はほとんど望めない。またアンテナの位置や向きによって受信状態が大きく左右されることから、きれいな画面でテレビを楽しめる機会は稀である。一方、EV−DOでの動画コンテンツは、画像が極めてクリアである。電波受信状況が悪い時はスムーズな動画は望めないが、とはいえアナログ放送受信端末とは比較にならないほどクリアな画像である。

(2) 電池寿命
「SCH-X820」は、1時間もテレビを見ていると電池切れとなる。EV−DO端末も、電池の持ちは決して誉められたものではない。1時間とはいわないものの、頻繁にパケット通信をしていればあっと言う間に電池切れとなる。

(3) コンテンツ
「SCH-X820」はEV−DO非対応であるため、EV−DOコンテンツを利用することができない。EV−DO上での多様なコンテンツを楽しもうと思えば、EV−DO対応機が必要となるが、その場合はパケット料金を支払ってテレビを見ることになる。なお、EV−DO上では放送済の番組を提供しているものもあり、これをオンデマンドで視聴することができる。

(4) 通信料
「SCH-X820」では、テレビの受信自体は無料である。EV−DO端末の場合、1分間で最大約190円かかる。1時間のドラマを携帯電話で視聴すると約11,400円かかる計算となる(情総研による試算。平均100kbpsで受信したと仮定して算出。なお通信事業者では、割引が適用される料金プランへの加入を勧めている)。

 上記(1)〜(3)にあるように、地上波テレビ受信携帯電話での視聴については受信感度の問題等から、満足なサービス水準に達していないが、(4)で挙げた通信料の面で、地上波テレビ受信端末に大きなアドバンテージがある。トラヒック収入で稼ぐ通信事業者にとっては悩ましい問題であるが、EV−DOサービスが長時間視聴向けに料金設定されていないことから、現状ではEV−DO携帯電話と地上波テレビ受信端末でのカニバリゼーションを心配する状況ではないと言えよう。

「SCH-X820
「SCH-X820」
「SCH-M220」
「SCH-M220」

移動パーソナル通信研究グループ
チーフリサーチャー 岸田 重行
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