2003年6月号(通巻171号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
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IEEE802.16の現況およびWiMAX動向

 70Mbpsという高速通信を実現する無線データ通信の新しい規格、IEEE802.16がいよいよ本格普及に向けて動き始めた。2003年4月8日、インテル、富士通マイクロエレクトロニクス・アメリカ、ノキアなどの企業が、IEEE802.16を推進する団体「WiMAX(World Interoperability for Microwave Access)Forum」を発足させた。IEEE802.16は、ブロードバンド市場において普及が期待されているDSLを代替するものと言われるなど、その動向が注目されはじめている。本稿ではIEEE802.16の動向を中心に、加熱する無線データ通信技術の開発動向について概観する。

 IEEE802.16規格は、高速無線アクセス網に関するIEEE802.16委員会によって検討が進められている高速無線データ通信の規格である。IEEE802.16委員会とは、無線によるメトロポリタン・エリア・ネットワーク(無線MAN)の実現に向けて、様々な技術検討を行っている委員会であり、IEEE802.16規格には実際様々な仕様が存在する。当初は10GHz〜60GHz帯を用いた通信規格が検討されていた(2001年12月に承認済み)。これは伝送速度30〜130Mbpsのポイント・ツー・ポイント通信を実現する規格である。続いて2003年1月には2GHzから11GHzの周波数帯を利用したIEEE802.16aが追加承認された。このIEEE802.16aは、カバレッジが約50km、通信速度は最大70Mbps、さらにポイント・ツー・マルチポイント通信を実現しており、広域で無線による高速インターネット・アクセスを実現するものとして、注目されている。その他にも2〜11MHz帯において免許不要の帯域を特に意識した規格IEEE802.16bも検討されている。

ロゴマーク IEEE802.16は移動通信のようなモビリティを重要視しているわけではなく、従来の固定通信を無線に代替する発想、すなわち固定無線アクセス(FWA、またはWLL)としての技術開発が進められている。したがって、配線が不要であることが最大のメリットであり、システム敷設コストの低さ、サービス展開の迅速性などが特徴となる。その一方で、有限資源である電波を活用するため、アクセス系をすべて同規格のみで収容することは適切ではなく、限定的なエリアで活用される技術であるともいえる。特にミリ波である60GHz帯を用いるような無線アクセス技術では、電波適用範囲の問題も大きいため、極めて限定的なエリアでの利用が想定される。つまり、IEEE802.16の中でも、10G〜60GHz帯を用いるものは、従来固定無線アクセスで利用されているようなエリアで活用されると考えられる。具体的には、都市の一部、オフィスビル、自然災害の多い地域、設備投資上低コストでなければ採算が取れない地域など、特定地域向けのサービスとして展開されると考えられる。一方、新たに承認された2GHzから11GHz帯IEEE802.16aでは、1つ基地局を設置するだけで広範囲にわたって70Mbpsという帯域を多くのユーザーでシェアできるため、従来の固定無線アクセスの適用範囲だけでなく、例えばインターネットの基幹回線と多数の住宅との間をこの技術で結ぶことが可能となる。具体的には1つのポートで、家庭用のDSL接続ならば数百ユーザを、企業向けのT1回線ならば60事業者程度に同時にサービスを提供できる能力がある。したがって、現在DSL系サービスが狙っている市場を直接侵食していく可能性を秘めている。このような観点から802.16aは、ラスト・マイル・ブロードバンド・アクセス市場において、有線固定網およびWi−Fiに次ぐ、第3のパイプとして期待されはじめている。

 このような期待の中、IEEE802.16の開発を促進するため、インテル、富士通の米国子会社、米無線通信協会などが加わり、推進団体「WiMAX(World Interoperability for Microwave Access)」が設立された。同団体はIEEE802.11の推進団体「Wi−Fi」と同様、同規格を採用した機器の認定と相互接続性の保証などの業務を行い、普及を促進していく方針である。同団体の中でも積極的な意欲をみせるインテルは、最近ブロードバンドの成長促進を自社の成長戦略の一つとして位置付けている。すなわち、ブロードバンドの利用を活発化することで同社の高速プロセッサーの販売を促進する狙いがあるのだ。近頃同社は特に無線LANなど無線デバイスへ関心を強めており、今回のWiMAX参加も同様の流れの一環といえよう。

 さまざまな思惑の中、同技術への関心は高まりを見せ始めているが、実際に普及するかどうかは、まだまだ疑問である。IEEE802.11無線LANデバイスがこれほど大きく普及している要因は、IEEE802.11が構内LANにとどまらず、家庭用、ホットスポット用など、様々な利用シーンで利用されるようになったためであるといえる。すなわち利用シーンの増加に応じて利用者が増え、それにつれ価格が下がり、また新たな利用用途として用いられる、といった好循環が生まれているのである。802.16技術に準拠した設備の出荷は2004年下半期の予定であるが、802.11のような利用用途の広がりがあるかどうか、それにつれどこまで価格が下がるのか、こういった点が注目される。

 一方、第4世代移動通信システム(4G)の時代(2010年ごろ)には、複数の通信システムが統合された形でサービス提供されることとなるため、あらゆる利用シーンに対応したインフラが4Gに吸収されていくこととなる。現在IEEEだけをみても、下図のように様々な無線データ通信技術が検討されており、それぞれが特有の目的に即した通信として、開発が進められている。4Gでは、こういった技術それぞれを競合とはみなさず、これらを統合プラットフォーム上に束ねて、ユーザーの利用シーンに応じて最適なものを提供していく発想となっている。このような時代においては、IEEE802.16という技術が生き残るかどうかを深く追求するよりは、IEEE802.16の特徴をどういう状況で活かせるかを考えることが重要となってくる。今後IEEE802.16の技術発展を追いかける方にとっては、このような視点も重要となってくるであろう。

表

移動パーソナル通信研究グループ
リサーチャー 竹上 慶
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