2003年4月号(通巻169号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
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フィリピン、世界一のメール大国

 APT(Asia Pacific Telecommunity) Yearbook 2002によれば、GSMアソシエーションは世界で月間240億通のモバイル・メッセージが伝送されており、そのうち6分の1、すなわち40億通がフィリピンで生成されている、と推定している。同国の2001年末の携帯電話加入者合計が約1,110万であることから、1加入者あたり1日平均約12通、月に直すと平均約360通のメールを発信していることになる。

 NTTドコモと対比してみる。2001年度決算説明会資料によれば、NTTドコモのiモード加入者が使用している1日あたりパケット数は約200で、このうち17%がiモードメールで用いられている。iモードメールでは、仮に発着8パケットで1通を構成するものとして試算すると、人日平均約4通のメールを利用していることになる。フィリピンのSMS利用はドコモ・ユーザーのiモード・メール利用をはるかに上回っている。

 何故フィリピンがこのように「携帯メール大国」であるのか、その特徴ある料金プランなど要因を探ってみよう。次表は、No.1事業者であるスマート・コミュニケーションズ(Smart Communications)の料金プランである。

その特徴は、

  1. 各プランともに多くの無料メール通数を含んでおり、特に「Gold Rave P500」は音声よりメールを多用するユーザにピッタリのプランと言える。「Rave」には「狂ったようにしゃべる」(この場合は狂ったようにメールする、ということになろうか)という意味と、「荷車の囲い」(すなわち、メールが荷車からこぼれないように、覆っている)の意味があるが、どちらも当てはまりそうだ。何といっても月額料金が安く無料メール通数が多い。

  2. 超過のメール料金も0.5ペソ(1.08円)もしくは1.0ペソ(2.16円)で、NTTドコモの20字程度のケース、発着合計2〜3円より安価である。

  3. 音声の超過料金はフィリピンの1人当りGDPを考えると、非常に高価なものだろう。すなわち、人々は自ずとメールに流れて行く。

 なお、上記はポストペイドの料金プランであるが、プリペイドの場合はメール1通につき1ペソ(2.16円)が課される。

 こうしたSMS料金の安さは、欧州のそれとは大きな違いがある。欧州では1通あたり20〜30円が平均的料金である。欧州の移動通信事業者の収入もその約10%が非音声によるものとなってきたが、それは高いSMS料金に支えられているところが大きい。すなわち、欧州のSMSは「音声よりは若干安い」といったバランスの上で成り立っている、と言える。このような環境では、日本、韓国、そして今回のフィリピン、といった国で成立している「メール・チャット」の文化は起こりえない。

 別の要素として、固定電話の環境を見てみよう。次表は、2001年12月末の固定電話の普及状況である。

 固定電話は、まだまだ高嶺の花で、携帯電話の特にプリペイド型が固定電話を凌駕してしまった。上記のポストペイド・プランも可処分所得を考慮するとかなり高価なものであろうが、それでもプランによっては、固定電話より受容性が高いのであろう。
以前にも述べたが、携帯メールは携帯の非音声領域での利用の入口である。欧米で概念化されたMMS(マルチメディア・メッセージング・サービス)もこのような入口を造らないと発展しないだろう。フィリピンという意外な国でその入口の花が開いている。

移動パーソナル通信研究グループ
エグゼクティブリサーチャー 佐久間 信行
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