2003年2月号(通巻167号)
ホーム > レポート > 世界の移動・パーソナル通信T&S >
世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:移動通信サービス>

SKテレコム、データ収入増加に向けてあの手この手

 韓国の第1事業者、SKテレコムは同社のデータ収入を増加させるべく、様々な取り組みを行っている。データ収入を増加させることは、最近の携帯電話事業者にとって重要なことだ。なぜなら携帯電話利用者は着実に、従来の音声コミュニケーションを止め始めており、代替手段として電子メールでのコミュニケーションを行うようになってきているからだ(下図参照)。確かに電子メールの方が価格の面でも魅力的であるし、なにより受信者は好きなときにメールを読むことができる、つまり発信者に束縛されない点が便利である。消費者のライフスタイルが変化し、携帯電話事業者はもはや音声コミュニケーションからの収入を従来のように期待できない以上、データ収入に頼るしかない。ここでは、SKテレコムのデータ収入増加に向けた様々な取り組みを紹介する。


http://www.nttdocomo.co.jp/corporate/ir/data/operation3.html
 SKテレコムは2002年1月にcdma2000 1xEV−DOを開始した。データ通信がセールス・ポイントのEV-DOを成功させるためには、当然データ収入増加につながる魅力的なコンテンツ?開発開発努めなければいけない状況にあった。

 2002年末、SKテレコムはモバイル・マルチメディア放送サービス「NATE-air」において、サービス加入者100万人を達成した。同サービスは携帯電話版のテレビ放送で、ニュースやミュージック・クリップなどの動画番組を閲覧できる世界初の放送サービスだ(詳細は弊誌164号p18参照)。同社はこのサービスを、EV-DO開始後すぐの2002年3月にスタートさせた。 次に取り組んだのが、課金方法である。いくら魅力的なサービスでも、価格が高ければ消費者は魅力を感じない。着メロのダウンロードといった従来のサービスとは異なり、動画コンテンツの情報量は膨大である。したがって、情報量に比例してパケット料金総額は桁はずれになる。つまり、パケット料金単価を値下げする必要がある。しかしながら、パケット料金単価を一律に値下げしてしまうと、情報量の少ない従来コンテンツが桁はずれに安くなってしまう。この矛盾を解決するために、同社が2002年6月に導入したのが、コンテンツ種類によってパケット料金単価を変更できるシステム「Content-Graded Billing Rate System」だ。このシステムを用いることで、情報量の多い動画コンテンツのパケット料金単価は安く、情報量の少ない着メロなどのコンテンツのパケット料金単価は高く設定できるようになる(下表参照)。

 この新システムの導入の詳細は明らかになってはいない。課金システムをガラリと変更してしまうのであるから、システム投資だけでなく、消費者への広報、社員教育など、かなりの投資が必要なのだろう。しかしながら、同システムにより消費者のコンテンツ購入への敷居は確実に下がっただろう。NATE-airサービス加入者100万人突破に、少なからず同システムが貢献していると考える。 次にSKテレコムは、これまでブランド名称をもたなかったEV-DOサービスに「June(ジューン)」というブランド名称を採用した。競合他社であるKTFの採用する「FIMM(フィム)」のような、一見意味不明なブランド(FIMM:First In Mobile Multimediaの略称)ではなく、親しみのある一般名詞を採用している。そのJuneブランドの下、「Flash Anni(フラッシュ・アニ)」というアニメーション・コンテンツ・ダウンロード・サービスを2003年1月7日に開始した。同サービスでは、アニメーションの描画方法として、固定インターネットで広く利用され、定評のある「フラッシュ」という技術を用いている。韓国ではブロードバンドが世界で最も普及している国であり、インターネットからダウンロードするアニメーションに対する需要も高いと思われる。SKテレコムでは、サービス開始当初は、固定インターネット上で成功したアニメーション・コンテンツに焦点を当ててメニューをそろえるが、2003年2月以降、モバイル専用のフラッシュ・アニメーション・コンテンツ開発を開始するとのこと。同時に、フラッシュ・アニメーション・コンテンツ・プロバイダーにコンテンツ供給側として参加してもらうことを要求している。

 SKテレコムはこのようなコンテンツ、つまりソフトの充実だけではなく、ハードの充実として、2003年1月に新型EV-DO端末を発表した。同社のプレス・リリースによれば、同端末は「カムコーダ機能を持つ携帯電話」だという。詳細仕様は明らかになっていないが、ビデオ録画機能を重視、動画の録画・再生・保存が可能とのこと。録画・保存時間としては約20分ほどの録画が可能であり、再生品質としては、毎秒11フレームとなる模様。カメラ機能、テレビ機能、ビデオ機能という具合に、携帯電話には様々なデジタル家電が統合されてきたのが分かる。もしも今後、移動機端末の開発競争において、ビデオ機能をベースに性能を競うこととなれば、デジタル・ビデオ市場でこれまで生じた競争と同じことが起こるのだろう。つまり、光学レンズ・ズームの採用競争や、SDカードなどの外付けメモリー・カード(外装メディア)の標準化競争などが考えられる。 このようにSKテレコムは、ハード・ソフトの開発の両面からデータARPU向上に努めている。特に注目に値するのが、一律パケット料金単価ではなく、サービス別変動パケット料金設定により動画サービスなどの高額化を防ぎつつ、既存の電子メールなどの情報量の少ないサービスのデータ収入減少をも回避する課金システムである。多情報量サービスの需要喚起をしつつ、少情報量サービスの減収を防ぐという同システムを、日本の携帯電話会社が導入(注)することで現在不調の第3世代携帯電話サービスを成功へと導けるのかもしれない。

注:NTTドコモは前ページの表の通り、ヘビー・ユーザー向けにパケット料金単価を下げるパケットパックというオプション・サービスを提供している。例えばパケット80に加入すれば、パケット料金単価は0.02円となり、月額8,000円分のパケット通信料を先払いしたことになる。2,000円〜8,000円の先払い消費を促すような魅力的な3G用コンテンツが存在すれば、同オプションは消費者にとって魅力的と言える。しかしながら、3G用コンテンツ市場はまだまだ発展途上であるという現状を考慮すれば、3Gサービスの需要喚起としての同オプションは魅力的とは言い難いのではないだろうか。

移動パーソナル通信研究グループ
リサーチャー 上田 倫未
▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。