2002年9月号(通巻162号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<ネットワーク&スタンダード>

米商務省-NSF、21世紀のハイテクに関する報告書を発表

 米商務省とNSF(全米科学財団)は2002年6月、「CONVERGING TECHNOLOGIES FOR IMPROVING HUMAN PERFORMANCE(人間の能力向上のためのテクノロジーの集中)」 という表題で21世紀のハイテクに関する報告書を発表した。今回はこの報告書ついて紹介する。

発端について

 この報告書の元になったのは、2001年12月にアメリカの政策担当者と科学技術のリーダーを招いて行われた「人間の能力向上のためのテクノロジーの集中」という今回の報告書と同じ題目のワークショップである。そこでは、「テクノロジーの集中の可能性」、「人の認識能力とコミュニケーションの拡張」、「健康と人間の物理的能力の改善」等の技術の統合・融合がもたらす可能性から、「グループと社会の成果の促進」、「教育と科学の統合」等、社会や教育のあり方やこの技術が社会に与える影響、日本では同じ場所で論じられることの少ない「国家安全保障」まで、幅広いテーマについて話し合われた。

テクノロジーの集中とは −「“NBIC”について」

 そのワークショップの結果をまとめたものが、今回の405ページにも及ぶ報告書である。ここで語られるテクノロジーの集中とはどういうことであろうか?この報告書の中では、“NBIC”という頭文字で構成されるは4つの技術領域をあげて、その技術への集中とそれらを融合、統一させた科学技術が、社会的かつ科学的な進歩を促進させると言っている。その技術とは、N−ナノサイエンス、ナノテクノロジー、B−遺伝子操作技術を含むバイオテクノロジー、バイオ医療、I−IT:進化したコンピューターとコミュニケーションを含むインフォメーション・テクノロジー、C−認識学的なニューロサイエンスを含むコングニティブサイエンス(認識科学)である。

NBIC相関図

人間の能力の向上
 −「脳と機械を直接結ぶブロードバンド・インターフェース」

 これらの技術を融合させることで、どんなことが出来るようになるのであろうか?報告書では、ワークショップがこれらの融合技術が21世紀の最初の10〜20年の期間で人類に役立つことができうると決定した20の方法をあげている。それは、脳と機械を直接結ぶブロードバンド・インターフェースから状況の変化に適応する能力を持つ家や航空機、ロボットやソフトウェアのエージェント、ウェアラブル・コンピューターやセンサーによる健康管理等、多種多様に及び、技術の進歩だけでなく、科学の新しい発展、教育のあり方にも影響を与えるとしている。

<融合技術の適応例>

  • 人間の脳と機械間のブロードバンド・インタフェースは、工場における仕事を変え、軍の車両の優越権を保証した自動車制御を行い、新しいスポーツ、芸術を可能にする。
  • 快適なウェアラブル・センサーとコンピュータが、健康、環境、危険、ビジネス、天然資源と化学汚染物に対する人間の認識能力を拡張する。
  • 技術と処置の結合が多くの肉体的、精神的障害を埋め合わせる。そして何百万という人々の生命を悩ませたハンディキャップを絶滅させる。
  • 軽量化されリッチ・インフォメーション・システムを備えた戦士システム、有能な無人戦闘機、適応可能なスマート物質、傷つけられないデータネットワーク、上位の諜報活動システムと効果的な連携によって、生物兵器、化学兵器、放射能や核攻撃に対し国家安全保障を強固にする。

個人、学会、産業界、政府、
 プロフェッショナル・ソサイエティへの勧告

 これらの融合技術、科学を促進するため、報告書では、個人や学会、産業界、政府、プロフェッショナル・ソサイエティ等に対して、それぞれ勧告を行っている。例えば、科学者とエンジニア個人に対しては、自分のキャリア・レベルに関係なくすべての人が少なくとも1つのNBIC技術と隣接する学問の技能を取得するべきであり、他のフィールドの同僚と協力して、人間性能を改善するプロジェクトを始動すべきであるといっている。また、学会に対しては、大学のカリキュラムの変更及びNBICの概念を大学の教養課程で教えるべきである等の勧告をしている。

最後に

 従来、アメリカは基礎科学に重点をおいていたが、今回の報告書では、各技術の融合領域が今後より重要になってくると述べている。内容的には、アメリカの得意とする分野であるバイオやITなどの最先端科学を発展させ、かつそれらを融合させることにより更なる発展をとげさせようというものである。SF的な個所もありほんとに実現できるのか、倫理的に実現しても問題はないのかという懸念もあるが、これらの分野においてアメリカがリーダーシップを維持したいという意図が見え隠れする。従来は、これらの融合とか応用等の分野は軍事関係以外は日本の得意とする分野であり、欧米が基礎研究、日本や他の国々(特にアジアの国々)がそれを応用するという状況であった。しかし、今後、日本やその他国々と競争するということになれば、基礎研究分野を持っているアメリカに大きなアドバンテージがあると考えてよいだろう。アメリカがこの応用分野で勝った場合、基礎研究から応用まですべてアメリカで行い、かつ安い製品は中国で作るという状況になることも大いに考えられる。日本も将来を見据えて日本の役割がどこにあるのかを早急に見つける必要があるのではないかと思う。

移動パーソナル通信研究グループ
 リサーチャー 宮下 敬也

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