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中国政府は通信事業を4社に集約

 中国政府の管理下にある新聞、チャイナ・デーリーは2001年10月16日に、国家評議会(State Council)は中国の固定通信市場を独占的に運営する中国電信(China Telecom)の二分割を決定したと報道した。(正式な政府発表は10月26日現在行なわれていない。)

 報道によると、分割はおおむね南北で行なわれる。中国電信の北部と中部にある10都市と10州の産は、中国網絡通信(China Netcom )に統合される。南西および北西部にある残りの21省は国電信の運営(名称を含む)を継承する。しかし、具体的な州や都市の名前はまだ明らかにされていない。

 この分割は単純な地域分割で、省内および長距離・国際電話、インターネットを含むデータ通信など現在チャイナ・テレコムが提供している固定網サービスはすべて継続される。日本におけるNTTのNTT東西会社とNTTコミュニケーションへの再編成、米国におけるベルシステムの地域ベル電話会社とAT&Tへの分割は、基本的には独占(地域通信)と競争(長距離・国際通信)の分離を目指すものだったが、今回の中国電信の分割にはこのような考え方はみられない。単純な地域分割は世界にも例がなく、中国の専門家の中にも、中国電信の地域分割は中国の電気通信市場における公正競争を促進しない、基幹通信網の分割は混乱とサービスの低下をもたらだけだ、という批判が根強いという(注)

(注)固定網の独占会社を2つにするだけで、公正な競争が促進されないという意見もあるが、IPによる通信(距離の概念がなくなる)が主流になろうとしている時代に、地域と長距離(電話時代の発想)への分割に合理性があるとも言い切れない。

 中国政府は昨年中国電信のリストラを決定しており、情報産業省も2001年5月に、「固定通信市場における競争促進のため中国電信の分割」を検討していると表明していた。しかし、情報産業省は分割案の決定を先延ばしににしてきた。また、中国電信が予定していた株式公開による海外市場での約60億ドルの資金調達計画が、中国政府がどのようなリストラ策を打ち出すか明らかにしないため、海外投資家の不信が高まっていた。今回の分割案の決定は内閣直轄の国家評議会主導(朱鎔基首相)で進められ、情報産業省は蚊帳の外に置かれたようだ。関係者の話によると今回の分割は「より効率的な競争を促進するため、大きなグループを形成する」必要がある(注)からだとされ、当初の目論見とはかなり異なった形になったと思われる。

(注)現在ある9社を中国電信集団、中国移動集団、中国聯合通信および中国網絡通信の4社に再編する。

 中国政府筋が明らかにしたところでは、分割された中国電信(南部を中心にした21省の資産を引き継ぐ)を納得させるために、強く望んでいた移動通信事業への参入資格が付与され、市場の環境が回復すれば香港市場に上場する準備を開始してよいという「ゴー・サイン」が出されるという(注)

(注)香港およびニューヨーク市場への株式公開で60億ドルを調達する従来の決定は白紙に戻る。

 一方、2分割された中国電信の北部および中部における資産の「注入」を受け、一躍強力な事業基盤を獲得しそうな中国網通(注)にも、移動通信事業への参入資格が与えられる、とみられている。しかし、海外市場での株式公開は中国電信の後になるという。 <

(注)中国網絡通信(China Netcom)は1999年に鉄道部系列で発足した新興通信企業。IP電話およびインターネット接続(CNCNET)が主要な事業で従業員は数千名。外国資本(ニューズ・コーポレーション、ゴールドマン・サックス・グループ、デル・コンピュータなど)から直接投資を受けている唯一の設備ベースの通信企業。社長は江沢民国家主席の長男、江綿恒(Jiang Mianheng)氏。

 さらに、残りの中小固定通信会社5社は中国移動と中国聯通に吸収合併され、中国の通信産業は4社体制への再編が完了する見込みだ。建前的には、4社は固定通信(インターネットなどのデータ通信を含む)から移動通信までのすべて市場に参入して競争を促進することになるというのだが、その効果に疑問を呈する向きも少なくない。中国政府の通信産業に対する政策と規制の「不確実性」には、以前から外国の市場関係者を中心に不信と不満が高まっていたが、これを一気に払拭できるか、とくに中国網通以外の通信会社に外国からの直接投資を認めるかに、WTO加盟も絡んで内外の注目が集まっている。

 中国政府は、第3世代移動通信システムの免許付与を2002年末までに行うとみられているが、これに対して中国移動と中国聯通はそれぞれ自社の目論見を明らかにしている。中国移動は2003年末より早い時期にW−CDMAによるサービスの導入が可能と期待を表明し、ライバルの中国聯通(現行システムはGSMおよびCDMA)はcdma2000ルートの導入に意欲をみせている。問題は新規に参入するとみられる新中国電信と中国網通だが、中国が開発を主導したTD−SCDMA方式を導入するのではないかという見方が有力だ。しかし、情報産業省は3G免許の付与時期の見通し以外は一切明らかにしていない。


(参考)



本間雅雄(入稿:2001.11)
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