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米国ネクストウェーブ社をめぐる周波数免許動向(過去からの流れ)

 ネクストウェーブ(NextWave)社は1996年、同社がオークションで落札した携帯電話用の周波数帯免許について、免許料の支払いの停滞から経営破たんした。その後、同免許について米連邦通信委員会(FCC)による同周波数帯の没収と再競売、さらに同社による告訴からはじまるFCCとの法廷闘争が続いてきた。2001年7月、州の裁判所はFCCの免許没収は違法との採決を下し、8月にも控訴裁判所が再度、FCCの免許没収は違法との採決を下したことから、FCCはネクストウェーブ社への免許返還を予定していると発表した。しかしFCCはさらに連邦裁へ上告を行う方針を発表していることもあり、混迷を続けている。以下では、ネクストウェーブ社が落札した周波数帯免許をめぐる過去からのいきさつを辿った。

●米国初のPCS周波数帯免許競売開始から落札まで

 1994年6月にFCCにより広帯域PCS周波数帯免許交付方法が決定された。全国の営業区域を大商業エリア(MTA)と基本商業エリア(BTA)に分け、MTAの周波数帯をA、Bブロック、そしてBTAの周波数帯をC〜Fブロックと分け、全部で6つの周波数帯ブロックとした上でそれぞれのブロック毎にオークションを行うことにより免許を交付するものとして決定された。また、このうちCブロック免許への入札資格は、「指定団体」−年商1.25億ドル未満、総資産5億ドル未満の企業−に限られることとなった。これは新規事業者の参入と競争化策の一つと考えられる。

 1995年3月にはA、Bブロック周波数帯の競売は終了したが、1995年12月に延期を重ねていたCブロック周波数帯の競売が開始された。このCブロックの入札はベンチャー型の企業による投機的な様相も呈し入札額は高騰し、競売から手を引く優良企業が続出した。1996年5月にはCブロックPCS免許競売は終了したが、その落札額は102億ドルを超えた。開始時に255社が参加したが最終的に残ったのは89社のみであり、また、落札総額はカバーする人口(POP)1人当たり換算で39.88ドルとなり、1995年のA、BブロックMTA(大商業エリア)免許(102)の場合の1POP当たり15.5ドルと比較して2.6倍にもなる高額免許となった。落札額合計が最高であったのは、ネクストウェーブ社の42億ドル(56免許分)であった。また落札した免許には、ニューヨーク市、ロサンゼルス市、ボストン、ヒューストン、ワシントンD.C.など大規模市場5市場が含まれていた。ネクストウェーブ社は、CDMA方式によるネットワークを構築し、分単位での音声エアタイム通話利用を卸売りで数百の再販売業者にリセールする計画であった。

 しかし、CブロックPCS免許競売で落札された免許では、免許料が高騰したために頭金の支払いのない事業者が続出した。そのため支払いの無い免許については再競売にかけられることとなった。1996年7月、再びオークションが実施されたがここでもネクストウェーブ社はさらに7免許(デンバー、ミネアポリス、シアトル、ポートランド、ベリンガム、オリンピア、ロングビュー)を獲得し63免許となり、主要都市を含む人口1億358万人を対象にPCSサービスを提供できることとなった。また、落札額総額は47.4億ドルにのぼった。

●CブロックPCS免許獲得後のネクストウェーブ社と周辺動向

 ネクストウェーブ社は1997年1月、Cブロック免許の頭金4.74億ドル(落札終額47.4億ドルの10%)の支払いを完了したが、それ以降毎年2.72億ドルの免許料の支払いが必要であり、ネクストウェーブ社の手持ち資金からすると支払いの履行を危ぶむ声も多かった。

 その様な懸念の中、ネクストウェーブ社は、MCIやC&Wといった大手事業者と音声エアタイムのリセールに関する契約を取り交わしていった。特にMCIはネクストウェーブ社から100億分の音声エアタイムを卸売り価格で購入する見返りにネクストウェーブ社の株式の12%を買収するオプションを得、さらに今後10年間でもう100億分を卸売りすれば株式の25%までの買収が保証されるというものであった。また、ネクストウェーブ社はサンアントニオにおいてPCSの試験システムを開始している(ワシントン、サンディエゴに続いて3番目)。

 しかしながら、高騰した免許料の負担は、いずれのCブロック周波数帯を落札した事業者の経営をも圧迫する深刻な状況となり、1997年3月には、最高額落札者のネクストウェーブ社、そして第2位のポケットのほか、マーキュリーなど小企業を含む9社はFCCに対し、最初の免許料支払い期日を1年間延ばすこと、さらに四半期毎の分割払いを年払いにするように求めることとなる。FCCはこの要望を受けて、年払いへの変更に関する正式決定は留保したが、全ての支払い期限を延伸することと決定した。また、さらに同年6月にはCブロックPCS免許事業者89社は、免許料の支払いとネットワーク建設の投資で破産寸前であるとし、FCCに対し免許料の支払期日を最大8年延期するか、落札額を半分以下に減額するか、あるいはその組み合わせかの救済手段を取るよう、異例の申請を行うこととなった。ここでFCCは、援助すれば支払い可能な事業者からの訴訟問題が生じ、援助を断れば破産問題が生じるという困難に直面することとなる。また、ネクストウェーブ社とリセール契約および株式の買収に関する契約を取り交わしていたMCIは、Cブロック免許料の支払いを延期して投資を促進させるようFCCに働きかけた。MCIの提案では2002年までの利払いを猶予し、2003年から2006年にかけて元本の支払い義務を課すことにより、Cブロック事業者は免許料の支払いに充てる資金を投資に回すことができるというものであった。これによりCブロック事業者の価値が先行してサービスを開始しているA、Bブロック事業者の価値に近づき、投資家にとってより魅力的になるとした。

●FCCは同社が保持していた周波数帯について再競売実施

 1998年6月ついにネクストウェーブ社は、破産法Chapter11の適用を申請することとなった。同社は、免許をキャンセルし、既に同社がFCCに対し支払い済みであった4.74億ドルの頭金の全額返済をFCCに求め、さらにFCCが1年以上も免許を利用させずにその間にも追加入札を行うなどして免許の価値を低下させたとして30億ドルの支払いを要求し告訴した。FCCはそれに対し破産した事業者の免許と頭金の没収をする法律を米国議会で通過させるよう働きかけるという行動に出ていた。

 また、FCCはネクストウェーブや他の1996年のCおよびFブロック周波数帯を落札したが免許料の支払いを行うことができない事業者についてはその免許を競売にかけることとし、破産法Chapter11の保護下にあるネクストウェーブ社の広帯域PCS免許95件を没収した。さらにFCCは、CブロックPCS免許入札について大規模事業者の参加を認めることを決定した。

 200 0 年12月には、FCCによって1996年のC、FブロックのPCS免許オークションで落札しながらもその免許料の払込ができなかった事業者の免許についての再オークションが開始された。2001年1月にオークションは終了したが、大規模事業者の落札が台頭し特にネクストウェーブ社が保有していた大規模市場(ニュヨーク、ワシントン、ロサンゼルス等)については免許料は高騰した。最高額落札者はベライゾンワイヤレスであり、ニューヨーク市において40億ドル、シカゴにおいて4億9400万ドルでの落札であった。また、AT&Tワイヤレスが次いで4億3400万ドルと続いた。この再オークションでFCC(連邦政府)に総額168億ドルがもたらされることとなった。

●ネクストウェーブ社、FCCを相手取り起訴。
 そし てFCC敗訴、同社は経営再建へ動き出す

 2000年2月にネクストウェーブ社はFCCによる周波数帯の没収と再オークション実施は違法であるとの訴えを起こしていたが、これについて2001年7月にコロンビア特別区巡回区連邦地方裁判所はネクストウェーブ社の周波数帯免許の没収は違法であるとの裁定を下した。

 この裁定を機に、それまで全く動きがみられなかったネクストウェーブ社に経営再建への動きがみられるようになり同7月には同社はルーセントと第3世代移動通信ネットワーク構築に関する1億ドルの契約を交わしたと発表した。これについては、FCCに対しネクストウェーブ社の経営の実態に関して、例えばFCCとの免許料等の出所や、海外株式に関するやりとりなどについて会計検査を行うよう請願があがっている。それまで全く経営的な動きを見せなかったネクストウェーブ社が、1億ドルもの契約を行ってみせたこの件について、しかもネクストウェーブ社は破産法11章の保護下にあることからも疑問視されるのも無理はないように思われる。

 このような疑問を受けて、2001年8月にはネクストウェーブは自ら自社の再建計画についてニューヨークの連邦破綻裁判所に提出を行うこととなった。この再建計画中では、同社の再建のために1995年のCブロックPCS周波数帯に関する免許料の支払いに関して50億ドルの融資が確保されたこと、また高速データ通信網の構築計画と、それを米国の他キャリアにリースすることが明らかにされた。この再建計画中では“主な融資先”は明らかにされていなかったが後日、そのうちの3億ドルは同社が採用するCDMA技術方式の特許会社であるクアルコムによるものであり、また全再建額の半分にあたる25億ドルの融資はスイス系投資銀行のUBSウォーバーグによるものであることが発表された。

 このような動向の中でまさに2001年1月の再オークションでネクストウェーブ社のPCS周波数帯を獲得したベライゾン・ワイヤレス、ボイスストリーム、AT&Tワイヤレス、シンギュラー・ワイヤレスの事業者達は米司法省とFCC、行政管理予算局それぞれに対し一刻も早くネクストウェーブ社に対し、支払額を返還する代わりに免許に関する権利一切についての要求を取り消すこと、そして免許に関するネクストウェーブ社が行うべき支払いを免除することとし、連邦政府は1月時点での競売落札者に対し、支払いの減額を行うこととして落札者はもともとの入札額とネクストウェーブ社が支払うべき金額との差額のみを支払うこととする提案を行った。

 この申し立てについてネクストウェーブ社は拒否しているが、1月での再オークションでのPCS周波数帯の獲得者である各事業者は、この周波数帯がITUにおいて認められている第3世代移動通信のための周波数帯であることからも今後の各事業者の経営方針に密接に関わることもあり、早くネクストウェーブ社の問題を解決しその周波数帯に関する対処について早急に手を打ちたいと考えることは尤もなことである。

 FCC、控訴裁判所への上告は敗訴。周波数帯免許は返還予定とするも連邦最高裁へ上告の構え2001年7月にコロンビア特別区巡回区連邦地方裁判所で敗訴したFCCは、さらに上訴をしていたが同年8月、コロンビア特別区巡回区連邦控訴裁判所はさらにネクストウェーブ社を支持しFCCが行った免許没収は違法との判決を下した。これについてFCC移動体通信局は裁判所の決定を反映するために免許記録をネクストウェーブ社に返還すべく更新する予定であると発表した。但し、FCC(連邦政府)は、連邦最高裁にコロンビア特別区巡回区連邦控訴裁判所の決定を見直すことを求める意向も同時に示している。

 5年間以上にも渡るCブロック周波数帯のオークションをめぐるこの問題は、当初のそのオークションが新規参入者の育成さらには競争促進という意味合いを含めて中小規模企業に限定されて行われたところが、その周波数帯域がITUにおいて第3世代移動通信に関して認められている周波数帯であることとなり、さらに現在は大規模事業者の参入が認められるところとなったことからもこの問題が長期化するにつれ電気通信業界の変遷をめぐり多くの要素を取り込む形となっているといえる。2001年1月に落札した事業者はネクストウェーブ社の周波数帯の保有を認めながらも結果的にはネクストウェーブ社の買収を意図しているとした憶測もある。ネクストウェーブ社は周波数帯の売却については否定をしており、連邦最高裁によりFCCがさらに敗訴となった際には即座にサービスを開始すべく計画をたてているとしている。ネクストウェーブ社はキャリアーズ・キャリアとしてリセール事業を行う計画であること、かつ第3世代移動通信ネットワークの構築を行う計画にあることからも、連邦最高裁がどのような結論を出すことになるのかが着目される。

林 美弥子(入稿:2001.10)
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