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「新生イリジウム、事業を再開」

 1999年8月、米国史上20位以内に入る大型倒産を演じ、電気通信市場から完全に消滅したかに思われていたイリジウムが2001年3月30日、ひっそりと音声通信サービスを再開した。今後、ダイヤルアップ接続などのデータ通信サービスの提供を2001年6月に、ショート・メッセージ・サービスの提供を2001年後半に始める計画となっている。

 かつての運営主体のイリジウム社(Iridium LLC)は1998年後半、全世界で利用可能な初の衛星携帯電話サービスとして華々しく営業を開始したが、サービス開始当初より顧客獲得が難航し、1999年8月には米連邦破産法第11条(チャプター11)の適用を申請、その後の再建もままならず、2000年夏には軌道上の衛星をどのように廃棄するかという問題が度々取りざたされていた。結局2000年12月に、かつてパンアメリカン航空の社長を務めたダン・コラシー(Dan Colussy)氏が率いる米国のベンチャー企業のイリジウム・サテライト社(Iridium Satellite LLC)に衛星を含む通信設備のすべてを売却し、イリジウム・サテライト社がこの度サービスを再開する運びとなった。尚、イリジウム社とイリジウム・サテライト社とは、社名こそ似通っているものの、まったくの別会社であり、たまたまコラシー氏が“イリジウム”の名称を社名に残すことを決定しただけのことである。

 では、各種衛星携帯電話プロジェクトの失敗により、多くの需要が見込めないことがすでに実証されている市場にあえて進出する上での勝算はどこにあるのだろうか?旧イリジウムと新生イリジウムとの境遇の違いに目を向けると、まず一番のポイントとなるのは、旧イリジウムに対しては重い負担となっていた巨額の債務負担が新生イリジウムにはないということである。なおかつ、通信設備の買収費用は僅かに2,500万ドルとされており、衛星通信設備の開発および構築に要した約50億ドルと比較すると微々たるものである。すなわち、通信設備を安価で購入した新生イリジウムは、債務の返済義務を負うこともなく、今後のネットワークの運転資金だけを支出すればよいことになる。また、旧イリジウムは、当初のターゲットを、海外出張の多いビジネスマンとして大失敗したが、新生イリジウムは、海運会社、採鉱会社、油田採掘会社など、他の携帯電話システムが行き届かないエリアで仕事をする業者への売り込みのみに専念する方針となっている。すなわち、限られた投資により手に入れた設備を運用し、限られた顧客に対してサービスを提供していくこととなる訳である。

 新生イリジウムの試算によると、ペイするために必要となる加入者数は、旧イリジウムの100万加入に対して、僅かに6万加入とのこと。旧イリジウムが破産した時点で5万加入の加入者を獲得していたことを考慮すると、非現実的な事業計画ではなさそうだ。また、米国防総省との間では2年契約で7,200万ドル相当の通信利用契約を既に締結しており、まずは幸先のよい船出と言えるだろう。

 ただし、軌道上の周回衛星の寿命は5〜8年と言われており、現状のシステムを維持するためには、近い将来には衛星の更改のために次から次へと打ち上げを行ない衛星を補充していく必要がある。また、仮に6万加入の加入者を獲得できたとしてもどれだけのトラヒックが見込めるかはまったくの未知数であるため、採算性を疑問視するアナリストも少なくはないようだ。いずれにしろ、極めて限定された市場において細々と事業を運営していくこととなるであろう。

木鋪 久靖(入稿:2001.5)


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