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欧州で普及するSMSとそのサービス提供状況

 欧州ではWAPサービスの普及の遅れが指摘される中、SMSの利用は相変わらず好調である。GSMアソシエーションによると、2000年8月には全世界で90億回のSMS送信があり、ドイツでは既にこの時点で10億回を超えるSMS送信があったとのことである。また、英国のモバイル・データ・アソシエーション(MDA)によると、2000年11月の1ヵ月間における英国内でのSMS送信回数(情報サービスの配信等を除く)は、対前年同期比293%増の6億7,300万回に達している。さらに、北欧のスウェーデンでは、2000年上半期だけで1億6,000万回のSMSが送信され、既に1999年1年間の総送信回数1億4,000万回を超えるなど、欧州GSM圏全体に渡ってSMSの普及が著しい。

 このようなSMSの普及を背景に、SMSを利用したサービス開発も積極的に行われており、昨今のSMSブームを少なからず後押しする役割を担ってきた。そこで、ここでは欧州で提供されているSMSを利用した特徴的なサービスについていくつか紹介する。

1.情報サービス
 SMSでニュース、天気予報、スポーツ情報、株価情報などの各種情報を配信するサービスである。配信される情報のカテゴリーや配信のタイミングは事前にカスタマー・センターに登録、あるいはウェブ・サイト上で登録する方法をとる場合もあるが、ユーザーが情報のキーワードをSMSで送信することでその都度情報をリクエストし、必要な情報を必要なタイミングで受信できるサービスが主流になっている。このような、SMSによる言わば「プル型」の情報サービスの代表的な例としては、BTセルネットの「インフォタッチ」、T-モビルの「T-D1ニュース」、オムニテルの「インフォ・センター2002」、コムビックの「IQインフォ・サービス」等が挙げられる。具体的な利用方法は、例えば「インフォタッチ」の場合、SMS送信画面で「WEATHER LONDON」と入力後センターに送信(222をダイヤル)すると、数秒後にロンドンの天気予報に関する情報がSMSで着信するといった具合である。

英国におけるSMS送信回数  また、各事業者は情報サービスの利用を促進するために、情報サービスの利用料を通常のSMS送信料と同額にするなどの他、期間を設定して料金を半額程度にする(BTセルネット)、1カ月間試供する(T-モビル)、SMSによるリクエスト以外の情報配信を無料にする(テリア)など様々な施策を展開している。さらに、サービスそのものを工夫し利用促進を図っている事例も見られる。例えば、コムビックは情報サービスの番組メニューを非常に充実させているのに加え、SMSによる参加型のエンタテイメント系情報サービスにおいて優秀な成績を修めたユーザーに対し、携帯電話料金の支払い に充当できるポイントを付与している。また、マンネスマンでは、ユーザー自らがSMSによる情報配信番組を開設し、他のユーザーから の情報リクエストがあるたびにコミッションを獲得できる「D2-パ ブリッシャー」を提供している。開設した番組は、マンネスマンの番 組リストに公開することも可能であり、一般ユーザーはマンネスマン のウェブサイトで番組の検索やアウトラインの閲覧が可能である。

2.アラート・サービス
 事前に設定した条件等に達した場合に、SMSを通知することでユーザーに注意喚起するサービスである。株価が設定した金額に達した場合に通知するなど、情報サービス・メニューの1つとして組み込まれている場合も多いが、スケジュール通知や携帯電話の料金通知サービス等にも多く利用されている。例えばソネラは、携帯電話料金が事前に申し込んだ金額に達した場合にSMSで通知するサービスや、使用料金の累計額を週1回または毎日通知するサービスを提供している。

3.ダウンロード・サービス
 日本でも比較的なじみがあるが、着信音やディスプレイ表示ロゴをダウンロードするサービスで、ボーダフォンの「フォンファン」、ソネラの「ドリス・着信音/アイコン設定」サービスなどがこれに該当する。このサービスは比較的若年層向けの色合いが濃く、コンテンツの充実度で比較する限りにおいては、欧州よりもむしろアジア主要国において積極的に提供されているようである。

4.コマース/バンキング・サービス
 ソネラの「ソネラ・モバイル・ペイ」に代表されるような各種料金の支払、あるいは銀行の残高照会や口座間の資金移動にSMSを利用するサービスである。「ソネラ・モバイル・ペイ」を利用したソリューションは、現在ヘルシンキ市内外の150ヵ所以上で提供済みあるいは提供が予定されている。有名な事例では飲料用自動販売機での飲料代金や洗車場での料金支払いへの利用が挙げられるが、それ以外にもセイフティ・ボックス、ジュークボックス、子供の遊具の利用料金支払いなど幅広い分野での利用が既に具体的に決まっている。また、T-モビルは銀行口座の残高照会依頼、残高通知をSMSで行うサービス「モバイル・アカウント・バランス」を提供している。

5.その他のサービス
 この他にもSMS機能を拡大したサービス、携帯電話以外の端末との送受信を実現するサービス、カスタマー・サポートとしての役割を持つサービスなど、SMSを利用した様々なサービスが提供されている。例えば、SMSをその都度指定するFAXに送信して出力できるボーダフォンの「ファックス・メッセージング」、SMSを最大10ヵ所に同報送信するT-モビルの「TD-1マルチメッセージ」、音声をテキスト変換しSMSで送信するマンネスマンの「D2コンフォート・メッセージ」等の他、検索した電話番号をユーザーにSMSで送信するサービスも多くの事業者が提供している。

 このように、欧州ではSMSを利用したバラエティに富んだサービスが数多く提供されている。各国の事業者がSMSのサービス開発に注力する最大の理由は、SMSが収益の拡大に大きく貢献しているからに他ならない。スウェーデンの郵電庁によれば、SMSは同国の全携帯電話サービス収入の4%に当たる2億8,000万クローネ(約32億5,000万円/1クローネ=11.6円)を稼ぎ出している。また、ノルウェーのテレノールでは、非SMSユーザーのARPUが23米ドルであるのに対し、SMSユーザーのそれは34米ドルと明らかに高いという。これとは対照的に、欧州各国においてWAPサービスは事業者の収益に貢献するには到底至っておらず、サービス開発もこれからという状況にある。従って現状では、WAPだけではなくSMSからのアクセスも同時に実現することが、モバイル・ポータルとして選定される重要な評価要素の1つになっているようだ。

 

高田博樹(入稿:2001.2)


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