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2010年2月24日掲載 |
この半年間、音楽業界の話題はマイケル・ジャクソン(とスーザン・ボイル?)に独占されていました。彼の昨年6月の死後、予定されていたロンドン公演(at O2アリーナ)のリハーサル模様を収録したドキュメンタリー映画("This is it")が10月末から世界同時公開されて空前のヒット(注)を飛ばし、さらに本年1月末には、同映画のDVDとサントラ盤CDが発売されたからです。DVD、CDの発売から1カ月近くを経た時点でも、レコード店やレンタル・ショップでは、最も目立つ場所でのキャンペーンを続けています。
(注)BOX Office MOJOによれば、"This is it"の2010年2月中旬時点の興行収入は約2億6,000万ドル(約230億円)であり、その70%以上はアメリカ以外における収入です。 "This is it" というコンテンツは、その販売形態の多様さでも画期的です。一言でいえば、最近のデジタルメディアの可能性を実現する、多種多様な媒体での提供が行われているのです。 まず、映画そのもの(すなわち映像作品)に関しては、DVD、Blu-ray Diskだけではなく、microSD、USBフラッシュメモリー(以下、USB)を加えた4種類での発売が行われています。また、サントラ盤(すなわち音楽作品)の販売は、ビニール(LP)とCDの2種類ですが、CDには1枚組(通常盤)と2枚組があり、2枚組の特典Diskには通常盤に未収録の曲やマイケル本人の朗読が収録されています。最近は、ニール・ヤング、キング・クリムゾンなど、先進的なアーティストが音楽作品をより高音質のDVD、Blu-ray で発売するケースが増えているので、いずれ、"This is it "のサントラもそれらのフォーマットで発売されるかもしれません。 (参考)「ニール・ヤング、未発表だらけの10枚組アーカイヴ・ボックスを6月にリリース!BD版、DVD版、CD版があり」(出典:CDジャーナル 2009.3.24) http://www.cdjournal.com/main/news/neil-young/23215 ここでは、音楽(CD)まで含めると余りに複雑になるので、映像に話を絞り込んでみたいと思います。最近では、映像作品がDVDとは別に高画質のBlu-rayで同時発売されるのは珍しいことではなく、対応プレイヤーの普及率向上と相乗効果を発揮し始めています。では、何故、microSD、USBでの発売が行われるのでしょうか。それには複数の理由が考えられますが、最も大きなものは以下の2点でしょう。
この理由から推察されるのは、主な販売ターゲットが「自宅にTVが無く、PCと携帯電話だけで映像生活を送っている、一人暮らしの若者である」ということです。"This is it " はそれらの人々にもアピールする映画であったため、今回のように多様な媒体での販売が加速されたとも思われます。しかし、この推察は本当に正しいのでしょうか? 下表に示したように、"This is it" の4媒体の値段を比較すると、microSD、USBは割高な印象です。
昨今、パソコンにDVD再生機能が付いていないケースは珍しいでしょうから、それが理由でmicroSD、USBを買う人は少数でしょう。また、いつでもどこでも、ワンセグの小さい画面でも構わないので、携帯電話でマイケルを見ていたいという人も少数でしょう。結局のところ、microSD、USBを買う人は、全ての媒体を揃えておきたいというコアなマニアのような気もします。 実は、この2媒体で発売を行っているのは、マイケルの所属レーベルのエピックソニーではなく、microSD、USBの製造、販売を行っている、ハギワラ シスコムという日本の機器メーカーです。同社のサイトには、発売の理由が以下のように書かれています。 「『"最高の映像を持ち歩く"これからの新しい視聴スタイル』をコンセプトに、コンテンツがmicroSDメモリーカードやUSBフラッシュメモリにプリインストールされており、携帯電話やパソコンへ装着するだけですぐに内容をお楽しみいただけます。」 また、同社のコンセプトは、「過去十数社にのぼる各分野の魅力あるコンテンツホルダーとの共同企画の実績があり、コンテンツとメモリー製品とのコラボレーションによる独創的な付加価値の提供を目指しております」と説明されており、今回もその流れの中で行われた製品化のようです。 いずれにせよ、デジタルメディアの可能性を拡大する動きは大歓迎ですが、実際の売れ行き、購入層の特性などについて、ぜひとも機会があれば聞いてみたいと思っている次第です。 (追記)前回の本コラムで紹介した、The Beatlesのリマスター版CDの全作品(14作品で16枚)が格納されたUSBが手元に届きました。写真がその実物です。なお、レコードコレクターズ誌の2010年2月号によれば、USBによる音楽作品提供は2007年のレディオヘッドがパイオニアであり、2009年には倉木麻衣がベスト盤をLP、CD、MD、カセット、microSD、USBの「全フォーマット(?)」で提供しているようです。洋楽一筋の筆者は見落としていましたが、さすがはハイテク大国日本!とうなった次第です。 |
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