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2009年6月掲載 |
最近、YouTubeの画面を見ていて、おやっ?と驚いたことがあります。ミュージック・ビデオの下に広告が現れて消えたのです。
具体的な説明をしましょう。かつて、Eric Claptonとバンドを組んでいたこともある、Steve Winwoodという英国人の大物アーチストがいます。彼が1986年に発表したBack In The High Lifeというアルバムはグラミー賞三部門を受賞した名作ですが、その中の全米No.1ヒットのHigher Love というシングルのビデオ・クリップをYouTubeで懐かしく鑑賞していたのです。すると、開始から11秒後に「iTuneで曲を購入」というバナー広告(日本語)が画面下に透過型で現れて25秒後には消えました。正確には、その後も同広告は右隅に「▲Ad」という表示で折りたたまれており、曲が終了するまで購入することが可能です。ただし、巻き戻しをしても、バナー広告が再出現することはありません。視聴者の感じる煩わしさに配慮しているのでしょう。試しに「曲を購入」部分をクリックしてみると、ダイレクトにiTune Storeに飛ぶのではなく、AppleのiTuneソフトのダウンロード・サイトに接続されます。同ソフトの普及、ひいては、iTune Store利用のすそ野を広げる役割も果たしている訳です。 このような体験をしたので、さっそくYouTubeとiTuneのコラボについて調べてみました。その概要は以下の通りです。(出典:YouTube 英文プレスリリース「YouTubeが電子商取引プラットフォームを発表」(2008年10月7日より))
以降、本コーナーの専門である音楽(EMI)に話を絞って、この提携の簡単な考察を行ってみましょう。EMIは、The Beatlesが所属していたことで有名な英国の老舗の大手レコード会社ですが、日本でも宇多田ヒカル、RCサクセションなどのトップ・ミュージシャンを多く抱えています。しかし、筆者が見た範囲では、彼らのYouTubeのビデオにiTune広告は挿入されていないようです。逆に、同レーベルで最も稼ぎ頭と思われる英国バンドのRadioheadのクリップの多くには広告が現れます。筆者はその広告挿入の基準や方針を完全には把握していませんが、「洋楽には入れているが邦楽はまだ」と推測されます。これは、英国EMI本社と日本法人の対応の違いかもしれません。 音楽産業はCDの固定費用(アーチストへの支払いなど)に比べて、変動費(CDプレス費)が小さく、プレス数が増えると固定費はCD枚数に分散されていくので、CD1枚の平均的なトータルの費用(平均総費用)は減少する特徴があります。そのため、レコード会社はミリオンセラーが頻発していた時代には巨額の利益を得ていたものの、昨今のようにCDが売れない時代には、多少のコスト削減を行っても経営苦境から逃れることが困難です。しかし、楽曲自体の値段は消滅していないのですから(違法ダウンロードは別です)、健全な音楽ダウンロードを発展させることで平均総費用を低下させていくことが、業界再生のポイントであるのは間違いないでしょう。そのための手段として、圧倒的なアクセス数を誇るYouTubeやiTune Storeが存在するのであれば、EMIがそれらを敵ではなく味方とみなして提携するのは自然の流れでしょう。逆に、YouTubeは視聴回数は多いが広告ビジネス・モデルが確立されておらず、収益性の改善が課題と言われてきたので、やはり提携にはメリットがあるのと判断したのです。 今回紹介したEMI、iTune、YouTubeのトライアングル提携は、三者にとって長期的なWin-Win-Winの関係構築につながるのでしょうか?果たして、三者が満足するような十分な収益が得られるのでしょうか?特に、既にビジネス・モデルが確立しており、高い収益性を誇るiTune Store(Apple)ですが、最近は音楽ファイル(洋楽150円/曲)のみならずビデオ・ファイル(洋楽300円/本)の有料配信に力を入れており、YouTubeとはその点で競合関係にもあります。従って、収益性に満足のゆく結果が出なかった場合、いずれ、Appleが今回の提携から離脱するような事態は生じないのでしょうか?そのような観点も含めて、本提携の行方に大いに注目していきたいと思っています。 |
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