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Global Perspective 2014
2014年6月23日掲載

超正統派(ハレディム)はイスラエルのハイテク産業を変えるのか

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
副主任研究員 佐藤 仁
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イスラエルはIT、生命科学、ヘルスケアといったハイテク産業に強く、それらのスタートアップも非常に活発な国である。国の成立上、ユダヤ人が多く、その中には超正統派(ハレディム)と呼ばれるユダヤ教の最右派の人々も12%程度存在している。彼らは1948年の建国直後から、ユダヤ教学院(イエシバ)で宗教(ユダヤ教)を学ぶことを理由にイスラエル国防軍の兵役を拒否しており、政府も建国以来 兵役を免除していた。但し、2014年3月にハレディムの男性を対象に兵役を課す法案が国会で可決され、2017年からハレディムの男性にも兵役が課されることとなった。超正統派側は、宗教学習の必要性などを理由に法案に反対し、2014年3月上旬には大規模な反対デモも行われた。

そのハレディムについて、ウォールストリートジャーナル(2014年6月10日)に、『イスラエル「ハイテク業界に超正統派ユダヤ教徒を」』というハレディムのハイテク産業への従事に向けたイスラエルの取組みに関する興味深い記事が報じられていたので紹介したい。長い記事であるが全文引用する(※1)。

(ここから。下線筆者)

イスラエル「ハイテク業界に超正統派ユダヤ教徒を」
(ウォールストリートジャーナル2014年6月10日)

イスラエルのハイテクブームの中で、同国政府や同国最大のハイテク企業雇用主の多くは、ジャバ・スクリプト(JavaScript=プログラミング言語)を書く人々と、スクリプチャー(scripture=ユダヤ教教典)を読む人々との間のギャップをなんとか橋渡ししようと懸命になっている。

イスラエルのハイテクに精通した国防産業とその小さな市場は、この国を世界のハイテク産業でもっと大きなプレーヤーにしようと団結した。その結果、一群の新興企業やハイテク企業家が誕生するとともに、買収仲介取引、ベンチャーキャピタル、株式市場での資金調達が続き、テルアビブは世界でも最大級のハイテク・ハブ(中心地)の一つになった。

しかしイスラエルの人口のうち、大きな部分を占め、しかも急速に拡大している社会層が欠落している。それはイスラエルの超正統派ユダヤ教徒、つまりハレディム(ハレディ階層)だ。

「2、3年前まで、超正統派ユダヤ人は『スタートアップ(起業)国民』の一端を担っていなかった」とイツィック・クロンビー氏は言う。同氏はハレディ(超正統派)新興企業アイセール・グローバルの創設者で最高経営責任者(CEO)だ。同氏はまた、最近登録された非営利団体(NPO)のハレディ・ハイテク・フォーラムの共同設立者でもある。

先月初め、イスラエル経済省の主任科学担当官は、2つの構想を打ち出した。超正統派起業家に提供される200時間の無料講習と、最大200万シェケル(約6,000万円)のハレディ新興企業向け国家資金プログラムだ。資金は新興企業自身に提供され、非政府系の投資家から1シェケル受けるごとに政府から株式投資あるいは融資として5.6シェケル受け取れる。

同担当官はインタビューで「ハレディのハイテク従業員が多くなれば、ハイテク従業員全体が多くなり、イノベーションが活発になる」と語った。

政府の後援を得て、ハレディムに照準を合わせたプログラムが登場し、過去5、6年間にわたってコンピューター科学、エンジニアリング、バイオテクノロジー研究を推進している。政府は科学的な学術研究に携わるハレディの男性のための授業料全額に相当する融資を提供している。卒業すれば、融資は受益者がもはや返済しなくていい贈与になる。イスラエル政府はまた、新たなハレディ・スタッフを雇う雇用主に補助金を提供している。

ITサービス提供会社のマトリックスITや半導体・ソフトウェア開発サービス会社のラチップなどの企業は、ハレディの女性の雇用率が比較的高く、今年第1四半期時点で25歳から62歳までのハレディの女性のうち69%が開発や品質保証サービス提供のために雇用された。これらの企業は女性たちに対し、男性と同じ労働環境を提供している。すなわち検閲済みのインターネット接続にされていて、ユダヤ教の規律に照らして倫理的に不健全とみなされるウェブサイトへのアクセスが阻止されている。そして労働時間は8時間と、ハイテク業界基準からみて比較的短時間だ。これは子供の世話をするためだ。

これらの企業は既に、数千人のハレディ女性を雇用し、サポートや技術サービスを提供している。低賃金と補助金のおかげで、これら企業はインド、ロシア、東欧からのアウトソーシング(外部委託)サービスと競争できるようになっている。

しかしハレディの男性の場合は、ハイテク部門に進出するのがもっと困難だった。経済省の平等雇用機会委員会によって最近実施された調査では、イスラエルの雇用主のうち37%はハレディ男性を雇用したいと望んでいない。同委員会は報告書で、「調査データは、総じて一般市民の態度や、とりわけ異なる共同体(ハレディ)出身の従業員に対する雇用主の態度に関して難しい問題を提起している」と述べている。

1世代(約30年間)以上にわたって、イスラエルの超正統派宗教階層、とりわけ男性たちは、おおむね自習室、神学校、シナゴーグ(ユダヤ教会)にこもり勝ちだった。イスラエル経済省によると、25−64歳のハレディ男性のうち、今年第1四半期時点で雇用されている人はわずか45%にすぎない。

イスラエルのタウブ社会政策研究センターの調査では、ハレディムはイスラエルの人口800万人のうち約12.5%を占め、10年前の9%から拡大している。ハレディ共同体の間の貧困率は過去10年間で44%から57%へと増えている。

超正統派(ハレディ)はイスラエルのハイテク産業を変えるのか

イスラエルは現在すでにIT、生命科学、ヘルスケア、農業技術などのハイテク産業のスタートアップが非常に活発で、多くの若者が起業している。またそれらスタートアップを支援するベンチャーキャピタルも充実している。これらにハレディムも加わればさらに加速することが期待される。

また現在、イスラエルの失業率は、6.9%(2012年イスラエル中央統計局)で、15〜24歳の失業率は11.6%(世界銀行)である。さらに25〜64歳のハレディ男性のうち、2014年第1四半期時点で雇用されている人はわずか45%と半数以上のハレディ男性は雇用されずに、宗教学習に打ち込んでいる。イスラエル経済省の構想(超正統派起業家に提供される200時間の無料講習と、最大200万シェケルのハレディ新興企業向け国家資金プログラム)によって、この数字がどのくらい改善していくのだろうか。

宗教学習を理由に建国以来兵役を免除されていた人々であるから、そう簡単ではないだろう。しかし兵役も2017年から実施される予定である。就業についてもハレディムを取り巻く環境は少しずつではあるが変化しているようだ。
イスラエルでの超正統派(ハレディム)の人々が今後、同国のハイテク産業やスタートアップにどのような影響を与えるのかは注目していきたい。

エルサレムのユダヤ教徒

エルサレムのユダヤ教徒1

エルサレムのユダヤ教徒2

エルサレムのユダヤ教徒3

エルサレムのユダヤ教徒4

エルサレムのユダヤ教徒5

エルサレムのユダヤ教徒6

エルサレムのユダヤ教徒7

(出典:筆者撮影)

※本情報は2014年6月12日時点のものである。

※ヘブライ語で「ハレディ」は単数形で、「ハレディム」は複数形

※1 イスラエル「ハイテク業界に超正統派ユダヤ教徒を」(2014年6月10日)http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424052702303861104579615311203477566

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