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Global Perspective 2014
2014年6月20日掲載

Amazon:ネットショッピングの新たなチャネルとしての「Fire Phone」発売

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
副主任研究員 佐藤 仁
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Amazonは2014年6月18日、同社初となるスマートフォン「Fire Phone」を発表した(※1)。2014年7月25日からの販売でAT&Tユーザーは32GBモデルで2年契約199ドル。64GB 299ドル。配送およびコンテンツサービスの「Prime」12か月分(年額99ドル分)が無料で付いてくる。AT&Tとの契約なしの場合、Amazonで32GB 649ドルまたは64GB 749ドルで購入が可能。

Androidをカスタマイズした「Fire OS 3.5」を搭載しており、画像・音声認識機能とAmazonの商品データベースとを連動させて、当該アイテムを簡単に特定できる機能や、Fire Phoneで撮影した写真などを自動で「Cloud Drive」に保存・バックアップする機能や独自のユーザーエクスペリエンスなどAmazonらしいサービスや機能を搭載して、スマートフォン市場に参入してきた。

Amazonとしては「Fire Phone」を顧客のチャネルとして、そこを経由してAmazonの商品販売の拡大とサービスの利用向上につなげていくことが狙いである。

Amazonの「Fire Phone」ウェブ画面

(出典:Amazon)

最近のAmazonの決算動向

ここで、最近のAmazonの業績動向を見ておきたい。同社が2014年4月に発表した2014年第1四半期の決算は以下の通りである(※2)。

  • 売上高が197億4,100万ドルとなり、前年同期の160億7,000万ドルから22.8%増加
  • 純利益は1億800万ドルで同31.7%増加
  • 営業利益は同19%減の1億4,600万ドル
  • 当期の営業経費は195億9,500万ドルで、前年同期から23%増
  • 事業別の売上高
    • 書籍や音楽、映像メディアなどを扱うメディア部門が54億6,700万ドルで、前年同期比8%増。
    • 家電・日用品部門は130億1,700万ドルで同27.4%増。
    • Amazon Web Services(AWS)や広告事業などの「その他」部門が12億5,700万ドルで同57.5%増。
  • 地域別の売上高
    • 北米(米国とカナダ)が118億5,800万ドルで同26.3%増
    • 海外部門(英国、ドイツ、日本、フランス、中国、イタリア、スペイン、インド、メキシコ、ブラジル、オーストラリア)が78億8,300万ドルで同18%増。

売上原価、物流、マーケティング、技術基盤とコンテンツ、一般管理費のいずれも増加している。このうち、物流が同29%増、マーケティングが同38%増、技術基盤とコンテンツが同44%増。また物流コストのうち、配送にかかった費用は同31%増の約18億ドル。顧客から受け取った配送料を差し引いたAmazonの負担額は9億8,000万ドルで、売上高の5%を占めた。

併せて発表した2014年第2四半期の業績見通しは、売上高が181億〜198億ドルの範囲で、前年同期比15%〜26%増加する見込み。また営業損益は、5,500万〜4億5,500万ドルと予想している。前年同期(2013年第2四半期)は営業利益7,900万ドルだった。

後発「Fire Phone」に勝ち目はあるのか?

決算を見ての通りAmazonの主力事業は「ネットショッピング」であり、今後もネットショッピングでの売り上げを伸ばしていきたいのであろう。そのツールおよびチャネルとしてAmazonサービスの使い勝手の良いスマートフォンで顧客を囲い込みたいのであろう。特に書籍や音楽、映像メディアなどを扱うメディア部門の売り上げ増は期待できる。

一方で、アメリカだけでなく世界中で既にスマートフォンは普及しつつある。アメリカでは、1億6,600万人がスマートフォンを所有しており、携帯電話に占めるスマートフォンの比率は68.8%と非常に高い(※3)。Appleやサムスンといった強力なライバルが存在している。それ以外にも新興のメーカーを中心としたローエンド端末から、グローバルメーカーが提供するハイエンド端末まで存在する非常に厳しい市場である。

Amazonの主力事業はネットショッピングであり、今回の「Fire Phone」はAmazonでの購買拡大が目的であるため、サムスンやAppleのような端末メーカーのように何台売れて市場シェアが増加したことに一喜一憂はしないであろう。「Fire Phone」を通じて顧客がAmazonでの買い物の頻度が増えて、多くお金を使ってくれればいいのである。問題は成熟したスマートフォン市場で既にサムスンやAppleの端末を利用しているユーザーをいかに「Fire Phone」に取り込むかが重要である。

果たしてAmazonの「Fire Phone」はどこまで市場に受け入れられるのであろうか。たしかにAmazonのデータベースとの連動や「Cloud Drive」の利用、独自のユーザーエクスペリエンスは魅力的だろう。しかしAmazonでの商品購入は他のスマートフォンからでも当然可能であるし、クラウドも様々なサービスが存在している。またユーザーエクスぺリンスは主観の問題だから「好きない人は好きだが、嫌いな人は嫌い」なので、差別化は難しい。さらに電子書籍では同社は既にKindleを提供している。

「Prime」が1年間無料になることが魅力と感じている人が多いかもしれない。「Prime」は既に全世界で数千万人が利用しているとのこと。アメリカでは2014年3月に年間79ドルから99ドルに値上げした。(日本では年間3,900円だが、音楽やビデオ、電子書籍での受けられるサービスがアメリカよりも少ない)

成熟しているアメリカのスマートフォン市場でAmazonの「Fire Phone」は今後、どこまで受け入れられるのか注目である。

【参考動画】

*本情報は2014年6月19日時点のものである。

※1 Amazon(2014)18 Jun 2014, “Introducing Fire, the First Smartphone Designed by Amazon”
http://phx.corporate-ir.net/phoenix.zhtml?c=176060&p=irol-newsArticle&ID=1940902&highlight=

※2 Amazon(2014) 24 Apr, 2014, “Amazon.com Announces First Quarter Sales up 23% to $19.74 Billion”
http://phx.corporate-ir.net/phoenix.zhtml?c=97664&p=irol-newsArticle&ID=1922137&highlight=

※3 Comscore(2014) 2 May 2014, “March 2014 U.S. Smartphone Subscriber Market Share”
https://www.comscore.com/jpn/Insights/Market_Rankings/comScore_Reports_March_2014_
US_Smartphone_Subscriber_Market_Share

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