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2011年11月15日掲載 |
2011年11月7日に、弊社社長平田が「グローバルマネジメントの実践−ICT産業のグローバル展開−」というレポートを執筆しており、その中でICT産業、モバイル通信事業者の海外展開について論じており、非常に多くの示唆に富んでいる。 本稿では、2011年3月30日にアメリカ通信事業者AT&TのCEOであるRandall L. Stephenson氏が米国外交問題評議会(Council on Foreign Relations:CFR)主催の講演会にて「The Mobile Revolution: Driving the Next Wave of Productivity and Growth 」というタイトルでスピーチを行っており、その中で語られたモバイル通信事業者の在り方や海外展開について取り上げてみたい。プレサイダーはロイターニュースのChrystia Freeland氏が務めている。 同スピーチの原稿も公開されている。また下記には公開されている動画も掲載しておく。AT&TのCEOがiPhone、モバイルブロードバンド、端末、まで多岐に渡って述べている。CFR主催の講演なので、モバイルが経済や国際政治に与える影響についても触れている。 モバイル通信事業者の在り方〜中国モデルかインドモデルかStephenson氏は、モバイル市場のあり方を中国モデルとインドモデルに対比して分類している。以下にStephenson氏の定義するモバイル通信事業者のそれぞれの特徴を明記する。
Stephenson氏はどちらのモデルもモバイル通信市場の在り方として適切でないとしている。周波数管理、技術開発、健全な競争の観点から中国モデルとインドモデルの中間に最適なモデルがあるとしている。 確かに中国モデルもインドモデルも両極端である。どちらが最適であるかは一概には言えない。国家によってモバイル市場は規制、料金、市場環境、顧客数など様々な要因が全て異なるから、どのようなモデルが世界市場において最適であるかは誰にもわからないだろう。日本の市場モデルが他国で適用されるかということはないし、他国のモデルが日本で適用することもないだろう。モバイル通信事業ではどのようなモデルが最適であるか回答がない。 では、モバイル通信事業者が海外事業を展開するにあたって重要なことは何であるかStephenson氏のスピーチから見ていきたい。 モバイル通信事業者の海外進出は、国内市場の強固な基盤が前提条件 アメリカは海外企業にも市場を開放している国家であるとして、ドイツテレコムの参入を事例として取り上げている。しかしドイツテレコム(T-Mobile)はアメリカに進出したが欧州市場に資本投資・インフラ整備を集中させることにシフトし、アメリカでの事業はAT&Tが最大株主となり、T-Mobileが今後フォーカスするのはアメリカ市場でのプレゼンス維持を行うことになるだろうと述べている。 そして、モバイル通信市場においては、自国の市場のインフラ整備への積極的な投資を行い、自国市場での競争に勝てない企業(自国市場にしっかりした基盤を持たない企業)は、世界市場では勝負できないだろう、と締めくくっている。 プレサイダーのChrystia Freeland氏は、これを「de-globalization」(グローバル化への逆行)と表現している。 Stephenson氏は、モバイル通信産業においては自国でのしっかりした顧客、インフラの基盤が必要だと考えている。自国市場でのしっかりした基盤のない企業は世界市場に進出しても競合他社には敵わないだろうと、新興国競合企業が廉価料金プランでアメリカ市場へ進出してくることを牽制している。 またモバイル通信市場においては、大企業だけが成功するとは限らない、小さな企業でも市場において非常に強い競合になると指摘している。(T-Mobileはマイアミ、サンフランシスコ、デトロイトでは市場シェアは4番目にも入らないと事例を挙げている) モバイル通信事業は、Stephenson氏が述べるように資本集約度の高い産業である。自国でのしっかりした顧客基盤や積極的な技術開発、設備投資を疎かにしている企業が海外市場で成功することはないだろうというStephenson氏の意見は、実際にモバイル通信事業者を見ると理解しやすいだろう。海外に積極的に進出している英国Vodafone、フランスOrange、ドイツT-Mobile、スペインTelefonica、インドAirtelなどが良い例である。彼らは海外でも積極的に活躍しているが、いずれも自国市場においてもしっかりした基盤を持っている。 今後もモバイル通信事業者の海外進出は様々な形で行われるだろうが、まずは自国市場におけるしっかりとした基盤整備が必要であるというStephenson氏の洞察は当てはまるだろう。 製造業を中心とした他の産業では、日本では競争をせず海外に進出して成功しているケースが非常に多い。また売り上げ、利益の大半を海外市場に依存する産業、企業も非常に多い。 国内市場が成熟、飽和して海外に進出先を求めるモバイル通信事業者は世界でも非常に多いが、足元の国内基盤をしっかりと固めないで海外に進出して成功しているモバイル通信事業者はほとんどないだろう。ここがモバイル通信事業と他事業との大きな違いであろう。 しかし決してモバイル通信事業が「内向き」な国内市場に特化した産業ではないことも明らかである。他産業と比較すると政府の規制や周波数割り当てなどの制約も多いだろうが、世界のモバイル通信事業者が国外において、自社としての事業、他社の買収・株式取得など様々なモデルで進出し事業展開しているのは周知の事実である。彼らに共通しているのが、Stephenson氏が指摘しているように国内での基盤が強固であることも事実である。モバイル通信事業は「de-globalization」なままでは、今後生き残れっていけないだろう。足場の国内市場を固めたうえで、積極的かつ利益に繋がる海外展開に期待していきたい。 また、今回のスピーチが米国外交問題評議会で行われたことも興味深い。AT&TのCEOが行うスピーチに留まるだけでなく、アメリカのモバイル通信市場でのアメリカ(AT&T)とドイツ(ドイツテレコム)の問題が外交、通商など国際問題とも密接に関係していることの証ではないだろうか。一考に値するスピーチである。 (参考)「グローバルマネジメントの実践−ICT産業のグローバル展開−」 【参考動画:本レポートで取り上げた講演ビデオ(2011年)】 *本情報は2011年11月10日現在の情報である。 |
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