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InfoComアイ
2005年6月掲載

定着した固定通信会社BTの成長戦略

 テレコム・バブルの崩壊後、過大債務に苦しみ携帯電話部門をスピン・オフして固定通信会社として再出発せざるを得なかった英国のBTグループが、「ニュー・ウェーブ」と呼ぶ新規サービスの急成長で、「BTはついに真の成長を実現できる会社に変身した。3年前とはすべてが違う。」(同社ヴァヴァイエンCEO)と復活宣言をするまでになった。BTの何がどのように変わったのかをレポートする。

(参考)BTグループの組織:BT.com(家庭及びビジネス向け小売サービス) BT Global Services(ワールドワイド・ビジネス・ソリューション及びサービス) BT Broadband(ブロードバンド及びダイヤルアップ・インターネット接続) BT Wholesale(ネットワーク・サービス及びソリューション)

■04/05年度第4四半期のBTグループの業績

 就任3年になるBTグループのベン・ヴァヴァイエンCEOは「この04/05年度第4四半期(05年1〜3月)は当年度を締めくくるための素晴らしい四半期となった。BTは連続5四半期の増収を実現し、1株当り利益の連続12四半期増加を果した。これは大きな成果であり、この全般的な収益のトレンドを今後も持続していくことができるだろう。」と決算発表にあたってコメントしている(注)

(注)Preliminary results−year to March 31,2005(www.BTplc.com/News/Artcle May 19,2005)
BTのトランスフォーメィションを指揮したヴァヴァイエンCEOに対する同社の取締役会の信任は厚く、ボーナスの支給上限額を引き上げて2008年までは現職にとどまることを熱望しているという。(BT lifts cap on bonus in move to keep chief:Financial Times online / June 2,2005)

 BTグループの04/05年度第4四半期(05年1〜3月)の売上高は48.70億ポンド(9545億円:1ポンド=196円 05年6月3日現在)で、前年同期比1.7%の増収となった。これは後述する新規サービス「ニュー・ウェーブ」の強い成長と新興企業2社の買収のインパクトが、伝統的なビジネス(電話及び専用線など)における減収を上回った結果である。買収したAlbacomとInfonet(注)のこの期における売上高1.1億ポンド(216億円)が、規制当局による携帯電話の着信料金の値下げ命令による減収額のかなりの部分を相殺し、利益への影響を小さくした。当期の営業権の償却及び例外的項目を含まない1株当り利益は、従業員の退職手当の減少もあって4.9ペンス(9.6円)となり、前年同期比26%の増加となった。

(注)Albacomはイタリアのビジネス市場で第2位の通信会社で、データ伝送、音声及びインターネット・サービスを24万超のイタリア国内及び国際顧客に提供している。Infonet(現在はBT Infonet)は企業向け global managed voice and network services のリーディング・プロバイダーの一つ。本拠地は米国。両社とも当期に合併手続きが完了し、BT Global Servicesの傘下に入って活動している。

 04/05年度第4四半期も「ニュー・ウェーブ」の収入の高い成長が続き、前年同期比27%増の13.67億ポンド(2,679億円)となった。BTグループの売上高に占める「ニュー・ウェーブ」の比率は、前年同期の23%から大きく増加し28%となった。「ニュー・ウェーブ」は、主としてICT(Information and Communications Technology;企業向け通信網の構築及び運営受託など)、ブロードバンド及び移動通信(再販)などの事業である。ICTの売上は15%増の9.16億ポンド(1,719億円)、ブロードバンドは77%増の2.92億ポンド(572億円)、移動通信は45%増の5,800万ポンド(114億円)となった。

 一方、BTグループの伝統的ビジネスの売上高は9%の減少(携帯電話の着信料金の値下げによる影響を除けば5%の減少)だった。BTの説明によれば、このような減収が続いているのは、規制の介入、競争、値下げのほか、顧客を伝統的サービスからブロードバンドやIPVPNのような「ニュー・ウェーブ」サービスへ移行させるためにBTが導入している技術の変化が反映しているからだという。

 04/05年度第4四半期(05年1〜3月)における家庭向けサービスの売上高は6%の減少(携帯電話の着信料金の値下げによる影響を除けば5%の減少)だった。家庭向け「ニュー・ウェーブ」の売上は、ブロードバンドと移動通信の成長が続いたことから、81%増加した。住宅用ブロードバンド接続の回線数は、ほぼ倍増して05年3月末には133万となり、移動通信の利用者もほぼ4倍に増加し18.7万となった。BTは05年2月に、ブロードバンドの顧客は追加料金なしで下り最高速度2Mbps(現在の4倍の速度)のサービスを利用できるようになると公約している。

 小及び中規模企業向けサービスの売上高は8%減少(携帯電話の着信料金の値下げによる影響を除けば6%の減少)した。一方、「ニュー・ウェーブ」の売上は13%増加した。これは、ビジネス向けブロードバンドが前年同期比40%増加して34.7万加入となったこと及び移動通信の成長が続いていることなどによる。

 伝統的サービスの減収額を上回る「ニュー・ウェーブ」の高い成長に支えられ、大企業(英国及びグローバル)及び政府向け通信サービスの売上高は堅調に推移した。これらの市場では伝統的な電話だけのサービスから、ICTソリューション契約への移行が継続的に行われ、ブロードバンドと移動通信の収入も増加した。この傾向は、NHS(National Health Services)の契約を7,700万ポンド(151億円)で獲得した04年10〜12月期以降に顕著になっている。

 04/05年度第4四半期(05年1〜3月)におけるICTソリューションの契約獲得額は38億ポンド(7,450億円)で、同社の新記録となった。これには、ロイター社との期間8年半に及ぶ15億ポンド(2,940億円)の契約が含まれている。過去1年間における受注額の合計は72億ポンド(1兆4,100億円)となった。このほか、合併したAlbacomは当四半期にかなりの長期アウトソーシング契約を獲得している。

 内部取引を除いた卸売サービス(英国及びグローバル・キャリア向け)の売上高は、前年同期比12%の増加(携帯電話の着信料金の値下げによる影響を除けば22%の増加)となった。英国内卸売「ニュー・ウェーブ」の収入は80%増加して、2.07億ポンド(406億円)となったが、主としてブロードバンドの拡販による。BTのブロードバンドDSL回線は、05年4月初旬に500万を超えた。これは04年3月末に対し126%の増加である。当四半期には10秒毎にブロードバンドDSL回線を新規に開通させたことになる。

 BTが推定した04/05年度第4四半期における家庭向け固定電話相互の通話時間によるシェアは、1.1%ポイント下がって62%だった。ビジネス市場におけるシェアは0.4%ポイント下がって41%となった。また、BTグループは外部の調査会社に委託し、顧客の不満足の程度及び原因に焦点を絞った広範な市場調査プログラムを実施しているが、過去3年の平均と比較して顧客が満足しなかった比率を23%減少させた。

 04/05年度第4四半期における営業権の償却及び例外項目を含めないBTグループの営業費用は、AlbacomとInfonetの買収に伴う費用が1.23億ポンド(241億円)だったにもかかわらず、41.7億ポンド(8,173億円)と昨年同期とほぼ同額だった。退職手当てを考慮しないネットの人件費は、ICTソリューション契約のために必要な人員の追加によって8,000万ポンド〔157億円)増加した。当期の退職手当ては4,400億ポンド(86億円)で、昨年同期の1.49億ポンド(292億円)から大きく減少した。他の通信会社に対する支払は、携帯電話の着信接続料にハイ・ボリューム割引が適用されたことが主たる理由で8%減少して8,200万ポンド(161億円)となった。その他の営業費用(営業権の償却及び例外項目の控除前)の増加は1.18億ポンド(231億円)でBTの計画通りだった。これらには新ICTソリューション契約をサポートする費用だけでなく、BTのネットワーク化されたITサービスの海外での提供の可能性を高めること、高いマーケティング及び顧客獲得費用を含む「ニュー・ウェーブ」に対する(積極的な)投資が反映している。これらの費用の増加は、BTグループのコスト効率化計画に基づく費用の節減によってその一部が吸収された。原価償却費は7.39億ポンド(1,450億円)で横這いだった。

 BTグループの営業利益(営業権の償却及び例外項目の控除前)は、前年同期比10%増加し7.39億ドル(1,450億円)だった。売上高営業利益率も1.2%ポイント向上して15.2%となった。この改善は主として退職手当てが年々減少していることによる。例外項目を除く利子の支払は、債務の減少を反映して昨年同期に対し3,200万ポンド(63億円)減少し、1.90億ポンド(372億円)となった。税金、営業権の償却及び例外項目の控除前の利益は、昨年同期比21%増加して5.57億ポンド(1,090億円)となった。1株当り利益は26%増加し4.9ペンス(9.6円)、また、フリー・キャッシュ・フローは40%増加し11.44億ポンド(2,240億円)だった。

■04/05フル年度のBTグループの業績

 05年3月末で終了した04/05年度のBTグループの売上高は、前年度比1%(AlbacomとInfonetの買収及び携帯電話の着信接続料の値下げによる影響を除けば2%)の増加だった。「ニュー・ウェーブ」の04/05年度における売上高は、ICTソリューションとブロードバンドの強い成長によって、32%増加して44.71億ポンド(8,760億円)となった。この「ニュー・ウェーブ」の収入は、伝統的な(電話サービスの)収入が7%減少したのを相殺する成長を示した。グループ全体の売上高に占める「ニュー・ウェーブ」の比率は、昨年度の18%から24%に高まった。

 マルチナショナル企業に高度な通信サービスを提供することがミッションのグローバル・サービス部門は、Albacom及びInfonetの合併による増収1.11億ポンド(218億円)の影響もあって、前年度に対し10%増の63.81億ポンド(1兆2,500億円)の売上げを記録した(第4四半期の増収率は17%)。ソリューション事業は好調な受注を続けており、C&SI(Consulting and Systems Integration)事業と合わせ第4四半期(05年1〜3月)に新記録となる38億ポンド(7,450億円)を受注した(注)。その結果、最近12ヶ月における受注額の累計は72億ポンド(1兆4,100億円)となった。このような同部門の増収及び低いネットワーク・コストと販売及び一般管理費(SG&A)、それに低い減価償却費によって、同部門は今期始めて通年で700万ポンド(14億円)の営業利益(営業権の償却及び例外項目を除く)を計上できた。前年度は1.05億ポンド(206億円)の赤字だった。BTはグローバル・サービス部門のコストの効率性は、さらに高まると期待している。

(注)このなかには、米国で獲得したBristol-Myers Squib(医薬品大手、ニューヨーク州)とJcobs Engineering Group(カリフォルニア州)からの大型受注が含まれている。

 BTグループは、財務規律及びコスト効率化プログラムに重点的に取り組み、04/05年度に約4億ポンド(784億円)の節約を達成した。このことが、成長しつつある「ニュー・ウェーブ」に積極的な投資を可能にしている。同グループは今後3年間に毎年3〜4億ポンド(588〜784億円)の節減を行うことを目標にしている。

 営業権の償却及び例外項目を含まない04/05年度グループ営業利益は、28.64億ポンド(5,610億円)で前年度比1%減少した。これにはネットワーク化されたICTサービスの契約、「ニュー・ウェーブ」分野への投資、高いマーケティング及び顧客獲得のための費用を支えたことが反映している。営業権の償却及び例外項目を含まない関連会社及びジョイント・ベンチャーの営業利益は、03/04年度に800万ポンド(16億円)の損失だったが、04/05年度では収支が均衡した。ネットの利払いも、05年3月末の債務残高が1年前に対し6.39億ポンド(1,250億円)減少して77.86億ポンド(1兆5,200億円)となったことを反映して、前年度比8,500万ポンド(167億円)減少し、8.01億ポンド(1,570億円)にとどまった。BTは同グループの債務レベルは、適正な水準まで下がったと考えている。

 04/05年度通年のBTの1株当り利益(営業権の償却及び例外項目を含まない)は18.1ペンス(35.5円)で、前年度比7%増加した。取締役会は1株当り配当(年間)を、前年度比22%増の10.4ペンス(20.4円)とすることを提案しており、株主総会の議決を経て9月5日に支払われる予定である。計上した利益に対する配当の比率は、前年度の50%から58%に高まる。BTグループはこの比率をさらに高め、05/06年度には最低でも60%を確保し、06/07年度には財政状態が許せば67%まで高めたい意向である。04/05年度に買い戻した自社株は2,900万株、6,000万ポンド(118億円)だった。なお、BTは05/06年度の業績見通しを明確にしていないが、それは会社のポリシーであると説明している(注)

(注)BT's net rises 44% on growth in broadband web subscribers(The Wall Street journal/May 20,2005)

■21世紀ネットワーク・プログラムのサプライヤーを決定

 BTグループが世界の通信会社の注目を集めているのは、最近の急激な業績の向上とそれを支えている経営戦略だけではない。一つは、他社に先駆け固定通信と移動通信の本格的な融合サービス「ブルーフォン」を導入することである。もう一つはBTの次世代ネットワーク(NGN:Next Generation Network)である21世紀ネットワーク(21CN)を2008年までに構築し、顧客をレガシー・ネットワークから移行させるという大胆なプログラムを展開しているからだ。

 BTの成長を支える「ニュー・ウェーブ」の3本柱は、既に述べたようにICTソリュ-ション、ブロードバンド及び移動通信である。バブル期に急増した債務が、バブルの崩壊で負担として重くのしかかり、本体の存続すら危うくなる閉塞状況のなかで、BTは債務削減のために成長性の高い携帯電話事業をスピン・オフせざるを得なかった。しかし、BTが「ニュー・ウェーブ」の推進で再生を図るとすれば、移動通信事業の再構築は避けて通れない課題である。

 BTの移動通信戦略は「融合」である、とヴァヴァイエンCEOは主張している。ブルートゥースを内蔵した携帯電話機で、自宅とその周辺では固定電話端末として、それ以外では携帯電話端末として機能する「ブルーフォン」プロジェクトをBTは推進してきた。無線部分はボーダフォンと提携し、その再販サービスを利用する計画である。BTは5月19日に「何週間か後にはサービスが開始できる。」と発表している(注)

(注)U.K.imcumbent to launch project Bluephone in matter of week(Total Telecom online/19 May,2005)

 21世紀ネットワーク(21CN)プログラムに関連して、BTは去る4月28日に機器のサプライヤーを選定して発表し(注1)、その完成に向けて重要な一歩を踏み出した。21CNは世界で最も急進的な次世代ネットワークの変身(トランスフォーメーション)プログラムである、とBTは強調している。2008年までに通信ネットワークのIP化を完成して(注2)技術革新の最前線に立ち、産業には真の競争上の優位性を、一般利用者には21世紀の世界レベルの通信サービスを提供しようというもので、今後5年間で100億ポンド(約2兆円)の投資を予定している。BTは21CNの実現により、毎年20%以上のコスト削減が可能で、その額は2010年で10億ポンド(約2,000億円)となるとしている。

(注1) BT announces perfect suppliers for 21st Century Network programme(BT news release / April 28,2005)

(注2)BTの計画では、2008年に加入数(現在2,200万)の半分を21CNに移行させ、2010年には完全移行を予定している。

 BTによると、今回の機器サプライヤーに関する発表は、能力のある世界の300社を超える技術サプライヤーと、2年間もの議論と交渉を積み重ねた結果だという。通信産業においてこれまで行われてきた単独の調達プログラムとしては、最大のものの一つであり、高度に競争的なプロセスを持っているという。BTは次の5つの戦略的な事業領域に区分してサプライヤーを指名した。

  1. アクセス:ここでいう「アクセス」は、BTの既存アクセス網を21CNにリンクさせるマルチ・サービス・アクセス・ノード(MSANs)で、当初はエンド・ユーザーから電話とデータ・サービスを21CNのコアIPベース・ネットワークに運ぶ。
  2. メトロ・ノード:都市域内において音声・データ及びビデオを統合した21CNに、経路選定と信号送出機能を提供する。
  3. コア・ノード:メトロ・ノードとの間で、コスト効率の高い接続を提供する大容量で大規模のルーターである。
  4. iノード:サービスを実行する機能が置かれるところで、本質的にはサービスをコントロールする知能(インテリジェンス)である。21CNではソフト・スイッチ、ネットワーク・インテリジェンス及び帯域管理能力が含まれる。
  5. トランスミッション:21CN上のすべてのノードを接続する光ファイバー伝送インフラストラクチャーが含まれるだけでなく、MSANs、メトロ及びコア・ノードを接続するケーブル上を大容量で運ばれる信号を変換するエレクトロニクス機器が含まれる。多くの光ファイバー・インフラストラクチャーは既に実際に設置されており、今回BTが選定するサプライヤーは光エレクトロ二クスに関する企業である。

(表)BTが選定した21CNのサプライヤー8社

戦略ドメーン アクセス メトロ・ノード コア・ノード iノード 伝送
会社名 富士通(日)
華為技術(中)
アルカテル(仏)
シスコ(米)
シーメンス(独)
シスコ(米)
ルーセント(米)
エリクソン
(スェーデン)
シエナ(伊)
華為技術(中)

 BTは、上記の選定されたサプライヤー8社が、21CNを実現するため小規模だが革新的な多数のサブコントラクターを関与させることを認める方針であり、BTの21CNプログラムはかなりの新規投資と雇用を英国にもたらすだろうと強調している。

 BTによるサプライヤーの選定で、その利益の4分の1以上をBTに依存する英国の通信機器メーカー、マルコーニが選定されず話題になった。この発表を受けて同社の株価が大きく値を下げ、何度目かの新たな合理化計画に取り組まざるをえなくなった。一方、固定通信の比重が下がる一方だったエリクソンは、iノードの中核技術とみられるISM(IP Multimedia Subsystem)が固定・移動融合時代の本命技術として期待を集め、固定通信で復権を果す手懸りを得たと見られている。さらに、中国の通信機器メーカー華為技術(Huawei Technology)が2つの戦略ドメーンで選定されたことは、低コストの製造能力に期待したとはいえ、対象が最先端技術分野であるだけに複雑な思いに駆られる。

特別研究員 本間 雅雄
編集室宛>nl@icr.co.jp
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