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2005年5月掲載

米国の電話会社によるテレビ事業進出計画

 ケーブルテレビ陣営によるテレビ、ブロードバンド・インターネット及び(IP)電話のトリプル・プレイの攻勢に曝されている米国の電話会社が、光ファイバーのアクセス網を利用するテレビ事業への参入で反撃を開始する。米国の地域電話事業第1位のベライゾン・コミュニケーションズは、去る4月18日に「FiOS TV」でテレビ事業に進出することを表明した。一方、地域通信4位のクエスト・コミュニケーションズが長距離通信事業のMCIの買収断念を表明したことから、ベライゾンによるMCIの買収(買収額84.5億ドル)が5月2日に確定した。既にAT&Tの買収を決めている地域通信第2位SBCとベライゾンの2強時代の到来が予想されるなかで、通信とケーブルテレビの対決の行方が関心を集めている。

■べライゾンの「FiOS TV」構想

 ベライゾンのサイデンバーグCEOは4月18日の全米放送事業者協会(NAB)の大会における演説(注)で、今年末にベライゾンが「FiOS TV」でビデオ市場に参入すれば、消費者はケーブルテレビに対する素晴らしい代替手段を持つことになると語った。FiOS TVは光ファイバーによるアクセス網の構築が前提であり、昨年10月に光ファイバー網に課されていた規制(他社に自社と同等の条件でアクセスを提供する義務)が撤廃されたことが引き金となって、光ファイバーに対する投資が積極化する兆しが見えていた。

(注)Verizon FiOS TV will offer a new customer experience,Seidenberg says(tmcnet.com / April 18,2005)

 ベライゾンは、家庭及びビジネス市場向けに光ファイバー技術を全面展開することを約束した米国最初の通信会社である。同社の営業区域内における100以上のコミュニティにFTTP(Fiber To The Premises:Premisesは構内の意味)を展開済みであり、今年末には300万の家庭(ベライゾンが対応する営業区域内でサービスを提供している家庭は約3,000万)が光ファイバーで結ばれるだろうという。来年以降においても同社は、技術と市場が許す限り早期に光ファイバーによるアクセス網を拡大する計画である、と強調している。アクセス回線の光ファイバー化に必要な投資額は最終的には150億ドルとみられている(注)

(注)Verison's video vision(BusinessWeek online / May 2, 2005)

 ベライゾンは既にFTTPを利用した消費者向け「FiOSインターネッ・トサービス」を提供している。(現在100万超の加入数とみられる)料金は下り5Mbps/上り2Mbpsが月額39.95ドル、15Mbps/2Mbpsが月額49.95ドル、30Mbps/5Mbpsが月額199.95ドルである。これらのサービスには、4ポートのホーム・ネットワーキング・ルーター、9アカウントのeメール、マイクロソフトのプレミアム・インターネット・ソフト及び24時間無休のサポートがパッケージされており、1ヶ月分の料金はペイバックされる。なお、ベライゾンのローカル及び長距離サービスを契約している顧客には若干の割引がある。

 ベライゾンの光アクセス網を利用するビデオ・サービスは、下り100Mbps/上り15Mbpsである。これは、現時点において米国で展開されている双方向ネットワークの中で最も高速だという。FiOS TVは、このベライゾンのオール光の大容量ネットワークを活用して、高精細テレビ(HDTV)とデジタル・ビデオ・レコーダー(DVR)の機能を家庭内の複数のテレビに提供する。また、その上りの容量を活用して、国内の家族や友人が手早くまた容易にホームビデオや写真の撮影、蓄積、送信及び共用(一緒に観る)をすることが出来る。その他、ビデオ・オン・デマンド、3次元対戦ゲーム、ビデオ・チャット、オンライン・ショッピング、リアルタイム世論調査及びスポーツ・イベントのためのカメラ・アングルの設定などマルチメディアと双方向性の能力を顧客に提供することが出来る。

 べラゾンのサイデンバーグCEOは放送事業者に、デジタルの将来について創造的かつ事業としての可能性を探るために、彼らと一緒に活動することを前向きに考えていると表明している。また、ベライゾンのビデオ市場への参入に関連する政策問題について、彼は放送事業者と連携するという立場を明らかにした。今年末にベライゾンが提供する100チャンネル超のテレビに対する番組提供で、Court TV、ディスカバリー・ネットワーク、Starzエンターティメント・グループ(リバティ・メディアのプレミアム・チャンネル)、NBCユニバーサル、NFLネットワーク(プロ・フットボール)と契約済みであり、ShowtimeネットワークスとA&Eテレビジョン・ネットワークスとも近く契約の予定だという(注)

(注)Verison's video vision(BusinessWeek online / May 2, 2005)

 前掲のビジネスウイーク誌によると、ベライゾンの100チャンネル超のオール・デジタル・パッケージは、月額40ドルで今年末に提供する予定だという。この料金はデジタル・ケーブルテレビより10ドル安く、衛星放送とほぼ同額である。ケーブルテレビのモデムのダウンロード速度が5Mbpsであるのに対し、FiOS TVの当初のそれは30Mbpsである。この速度の差と種々な双方向サービス(上り15Mbpsを活用した)が可能であることがFiOS TVのアッピール・ポイントである。同社はこの夏にテキサス州で最初のテストを予定している。ベライゾンはこれで理論的には電話、ブロードバンド・インターネット及びテレビ放送のトリプル・プレィにワイヤレスを加えたクワドルプル・プレィで差別化が出来る条件が整うことになるが、現時点では4つのバンドリングは考えていないという。

 サイデンバーグCEOは、ケーブルテレビを提供するために市町村当局からフランチャイズを取得する規制上の要件に言及して、ベライゾンは地域電話会社としてネットワークを展開し運営するために、常にフランチャイズを保有しているが、今日ビデオ市場で競争するにあたって同じネットワークを利用するのに、第2のフランチャイズを取得することを求められていると指摘した。ベライゾンはローカル・フランチャイズについての交渉を継続する一方、この問題に関して管轄権を州一括とする解決案を求めているという。

 ベライゾンのCEOは「ビデオ市場の競争に対するこのような障壁を撤廃し、米国の通信会社があなた達のコンテントを提供するためにこの優れた資源(光ファイバー)を利用できるようにし、素晴らしいケーブルテレビの代替サービスを提供する時期を早めることを支持する説得力のある発言を、あなた達放送事業者にお願いしたい。」と要請した。

 同時に彼は、デジタル領域における著作権を保護するために、ベライゾンは放送事業者と協力して努力することを約束した。さらに、光ファイバー網の膨大な帯域容量と可能な限り多くのコンテントを提供することに対するビジネス上の関心から、ベライゾンと放送事業者の両方にとって市場が拡大するような方法で、放送事業者が再放送問題に対処するのを支援したいと語った。

■米国電話会社のビデオ戦略

 米国電気通信事業第2位のSBCグループは、ケーブルテレビ会社と直接競争するため、今後3年間で40億ドルを投資して、ビデオ・サービスの配信と高速インターネット接続を1,800万世帯に提供することを計画している。SBCの光アクセスはFTTN(Fiber To The Node)と呼ばれている方式で、ノードまでは光ファイバーで接続し、それから各家庭まではメタリック回線で配信する。配信方法もケーブルテレビ会社と異なる。SBCはビデオをインターネットのデータ・ストリーム化して、その時間には顧客が選んだ1チャンネルだけをテレビ受像機に送り込む技術(IP TV)を用いる。だから、ローカル・フランチャイズの必要性はない、新しい技術には新しいルールが適用されるべきだと主張している(注)。なお、ケーブルテレビのフランチャイズを取得した場合、通常売上げの5%を市町村に納付する必要があるという。

(注) SBC warns IP TV could face delay(The Financial Times online / May 5, 2005)
SBC pushes ahead with video despite franchise laws(The Washingtonpost online / May 5, 2005)

 SBCは5月5日に、市町村と個別にランチャイズ契約を締結することを強制されるのであれば、光ファイバ−網で消費者向けテレビやその他のサービスを提供する計画(プロジェクト・ライトスピード)は、予定通りには進捗しないだろうと警告した。同社のシュテヘンソンCOOは、2,000ものフランチャイズ協定書を取得しなければならないのであれば、この計画を3年で完成するのは無理ではないか、何かをもっと早めなければ煉瓦の壁にぶつかってしまうだろう、と投資会社の会合で語っている。

 地域電話事業第3位のベルサウスは、過去にMCIやAT&Tと話し合いをしたことはあったが、結局長距離電話会社を買収しないという決断をした。また、何十億ドルを光ファイバーのアクセス網に投資してテレビ事業に進出する計画もない。ベルサウスは、光ファイバーによるマス・テレビ事業が利益をあげられるということが証明されまで、同事業への進出を待ちたいと考えている。しかし、同社は100万加入に光アクセスが提供できるだけの設備を既に地下に保有しているともいう。「我々が大きくても小さくても、我々は成長する方法と、価値を創造する方法を見出すだろう。」と同社のアッカーマンCEOは語っている(注)

(注)For BellSouth, Qwest, future looks different(The Wall Street Journal / May 6, 2005)

 ベルサウスの2005年第1四半期の売上高は対前年同期比2%の増加となった。電話加入数の減少を相殺して増収を達成できたのは、携帯電話(シンギュラーに40%を出資)、長距離通信及びブロードバンド(DSL)の各事業が好調だったからだ。同社は当期に25.3万のDSL、45.5万の長距離通信顧客(同社の顧客ベースの半数に達した)及び140万の携帯電話の新規顧客を獲得することができた。同社はブロードバンド事業を強化するため、第2四半期により高速なDSL接続の提供を計画している。ビデオ事業については衛星放送のディレクTVと提携し、電話サービスなどとバンドルすることでメリットを得ているという(注)

(注)BellSouth CFO says continued momentum seen in Broadband(Dow Jones Newswires / April 21,2005)

 地域電話事業第4位のクエストは、生き残りをかけてMCIの合併を仕掛けたが失敗に終わった。年間売上高を上回る170億ドルの負債を抱え、しかも成長部門の携帯電話事業を持たない同社を軌道に乗せるのは容易ではなく、ハイ・リスクのビデオ事業に参入する余裕はとてもなさそうだ。SBCやベライゾンが合併審査の過程で切り離しを余儀なくされる市場や顧客、スプリントがネクステルと合併する際にスピンオフする地域電話事業などを買収することにチャンスを見出したいと期待している。(前掲Dow Jones Newswiresによる)

■下院公聴会での各業界の主張

 4月21日に、1996年通信法の改正を検討する下院の電気通信小委員会で「インターネット・べースのビデオ」に関する公聴会が開催された。以下に各社の意見を紹介する。

 ベライゾンは次のような主張を展開した。「ベライゾンが予定しているFiOS TVのサービス開始時期は今年末であるが、時代遅れの法律と面倒で余計なローカル・フランチャイズの手続きによって、延期を余儀なくされるかもしれない。現時点における喫緊の課題は、ブロードバンドの展開、新技術及び投資の増加を促進する(それは如何なるプロバイダーによって行われてもよい)ための国の政策である。ベライゾンは地域電話会社として、既にネットワークを運営するフランチャイズを取得している。それなのに、同一のネットワークを使用して顧客が選択するビデオを提供するために、我々は第2のフランチャイズを取得することを求められている。我々はこの余計なフランチャイズの手続きは不要であると確信しており、連邦が早期に解決策を実施しなければ効果的なビデオの競争は何年間も遅れるだろう。」(注)

(注)Verizon to launch fiber-based video services later this year,executive tells House subcommittee (newscenter.verizon.com /April 20、2005) この意見を述べたのは、Verizon Retail Markets Prezident Robert Ingallsである。

 通信2強時代といわれるもう一方のSBCコミュニケーションズは、この公聴会でベライゾンとほぼ同様の主張をした。「新規参入者を、既存事業者に適用するレガシー・レギュレーションで規律すべきではない。消費者が利益を得られのはイノベーションと選択が実現した時だけである。FCCと議会はこれまで、インターネットとIPベースのサービスを規制するために軽いタッチのアプローチを用いてきた。我々はこれらの将来に向けた努力に拍手をしてきた。我々はこの最低限のアプローチをVoIP(ここではVideoのVを意味する)にも適用されるよう拡大することが必要である。」とSBCは述べている(注)

(注)Bells, cablecos spar over video rules in House hearing(Dow Jones Newswire / April 21, 2005)この意見を述べたのは、SBC senior vice president, IP operations and services,Lee Ann Championである。

 ケーブルテレビ第1位のコムキャストは、ローカル・フランチャイズと規制の要件でベル電話会社の挑戦を受けている立場から、同様なサービスは同様に扱われるべきであり、誰もが同じルールでプレィすべきで、新規参入者もローカル・フランチャイズを取得し、すベての米国人に競争による利益を還元する責任があると反論した。

 ベライゾンやSBCなどのベル電話会社は、ローカル・フランチャイズ要件を課されることなしに、彼等の電話とデータのパッケージにビデオの構成要素を追加したがっている。ケーブルテレビ会社も、家庭向けのテレビ、インターネット及び通信サービスのワン・ストップ・ショップ・プロバイダーとなるために張り合っている。

 これまで下院の議員達は、通信分野のイノベーションを加速させるために、規制緩和のアプローチの必要性を強調してきた。通信小委員会のアプトン議長(共和党)は、ビデオにも同様な考え方を拡大すべきであると示唆したという。一方、民主党のマーキー理事は、ベル電話会社のビデオ導入計画は、競争からの利益を最も必要としている低所得のコミュニティをスキップしようとしている、ベル電話会社は富裕層に奉仕するためにルールを変える必要があるという議論をしようとしている、とコメントしている。

 このマーキー議員のコメントに対し、SBCは「当社は今後3年間で1,800万の顧客に光ファイバーによるアクセスを提供する計画を発表している。このインフラに対する投資とビデオ市場での競争は歓迎されるべきだ。」と答えている。また、ベライゾンはこのヒヤリングの後に、「米国人に対しブロードバンド・サービスを提供する努力において、当社が他社に遅れを取ることはない。」という声明を出している。

(注)前掲 Don Jones Newswire/April 21, 2005

特別研究員 本間 雅雄
編集室宛>nl@icr.co.jp
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