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InfoComアイ
2000年1月掲載

2000年の情報通信

  いよいよ20世紀最後の1年を迎えたわけだが、情報通信産業にとって2000年は面白い、注目すべき1年になるのではないかと思う。
 景気もようやく底を打ったという感じで少しずつ明るさが見えてくるだろう。その中で牽引役を期待されているのがIT産業であるが、残念ながら今のIT産業には日本経済全体を引っ張るほどの力はない。個人消費、設備投資がこれだけ冷え込んでいる中で爆発的に売れるようなヒット商品、生産財はしばらく生まれないだろう。
 しかし、情報通信がらみで将来の成長につながりそうな芽はあちこちで出てきている。
その筆頭はインターネットの普及の加速だろう。パソコンの低価格化によって家庭にもパソコンが入り始めたところへ今年は月額1万円を切る定額制のインターネット接続サービスが次々と始まる。サービスエリアが限られているからまだ大きなインパクトにはなりえないが、将来的にはインターネット経済をひっぱる通信アクセスインフラが全国的に整備されて行くことになろう。だれでも利用できるインターネットが実現したときに消費者をターゲットにする電子商取引がどうブレイクするかが注目される。

1.ベンチャー企業は救世主になれるか

 日本でもベンチャービジネスを指向する気運が少しずつ盛り上がってきており、大企業と並んでネットビジネスに参入するベンチャーの数も増えてきている。ネットビジネスで成功者が出るためにはそれだけ多くの参入者がなければならない、つまり数を打たなければ成功はおぼつかない。市場の価値が多様化している現代においてはそれだけ成功の確率が低いということである。旧来の日本的しがらみに縛られないベンチャービジネスがインターネット市場で大いに活躍してくれ、古い市場構造に風穴を開けてくれることを期待したい。
 インターネット通信料金の値下りは朗報であるがこれによって今まで日本のインターネットビジネスが育たないのは通信料金が高いせいであると責任を通信料金に押し付けてきたインターネット関連産業や規制当局の言い訳はもう通用しなくなる。インターネットプロバイダーやコンテンツ事業者、政府・官庁は苦しい立場に立たされるだろう。なぜなら日本のインターネットが伸びなかったのは決して通信料金が高いためだけではなかったからである。従量制電話料金の陰に隠れて投資を節約してきたアクセスプロバイダー、魅力のあるサービスを開発できなかったコンテンツプロバイダー、電子化時代にあった法律・制度を用意してこなかった行政当局、オープンネットワークを指向してこなかった企業などデジタル経済への準備を怠ってきた関係者の責任は重い。
 だから、通信料金が下がってもインターネットビジネスがすぐに花開くとは思えない。まだまだ克服されなければならないネックは多い。しかし、そこを突き破ってインターネットベンチャーが育ってくるのであれば日本経済も捨てたものではないと思う。
 消費者を見失った大企業に代わって消費者をつかんだ小企業が伸びてきてほしい。そこから消費需要の回復が始まるのではないか。

2.デジタル放送への期待

 デジタル放送にも期待が集まる。たしかにデジタルテレビの普及が始まればこれは一大マーケットになる。しかし、現在の放送業界のデジタル化への対応を見ていればこの期待は失望に変わる可能性が大である。放送の伝送方式が変わってもそれだけでは消費者に大したメリットはない。画質が良くなる、うれしいことだがそれだけでテレビを見る時間が増えるわけではない。チャンネルが増える、だけど見たいチャンネルがない、これが真実だ。
 デジタル化にあわせて放送がどう変わるかが問われているのであってアナログかデジタルかが問題ではないのだ。魅力のある放送番組を増やせるかどうかが問われているのだ。通信と放送の伝送路の共用はどんどん進むだろう。通信回線、放送回線の区別は意味がない。
 多くの情報が従来の通信回線でも提供されるようになる。インターネット、携帯電話、媒体はなんでもいい。情報の中身が大切なのだ。そこで放送とは何かがもう一度問われなければならない。

3.新旧交代はあるか

 インターネット時代の端末の主役はパソコンであると考えられてきた。しかし、その牙城もすでに崩れ始めているのではないか。家庭利用を考えた場合、パソコンは決してベストの機器ではない。何もあんな大掛かりな過剰機能の機械を高いお金を払って買う必要はない。携帯電話、PDAでも十分ではないのか。メールの送受やテキストベースの情報検索であればこれらで十分である。2000年の注目株はPS-2である。プレイステーション2というゲーム機?、というより複合端末は多くの可能性を秘めている。DVD再生機能などAV機能だけでなくさまざまな用途が考えられる。価格次第ではパソコンを圧倒して家庭内インターネット端末の主役になるかもしれない。
 携帯電話も侮れない。既にメールの世界では家庭内パソコンを追い越す日も近いのではないか。2001年後半には登場する次世代携帯電話は通信速度でも固定回線に見劣りしない。問題はアプリケーションだがきっと新しい発想のとんでもないサービスが開発されて世の中をあっといわせるのではないか。
 FWAとか無線LANとかまで出てくると固定通信回線の出番がなくなってしまうが、それも高速のアプリケーション次第だろう。映像通信、ストリーミング系のサービスがどれだけ受容されるかが固定回線のニーズを左右することになる。まさに放送と競合する世界である。オンディマンドか片方向か、ユーザーはどのように選択するのだろうか。

4.ネット経済の脆弱性

 インターネットはすばらしいシステムだが社会のインフラを担えるほど堅牢にはできていない。もともとがベストエフォートの壊れたらごめんなさいの世界のネットワークなのである。もし本格的に誰もが使い始めたらその負担に耐えられるのかどうか不安なしとしない。携帯電話システムがダウンしたり、オンラインショッピングが物流システムが追いつかず遅配したり、というように新しいビジネスは十分なリダンダンシーを持っていないことが多い。しかし、21世紀の経済社会の基盤となるインターネットを考えるのであればそれでは通用しない。一部の先進的なユーザーだけが使っているうちはまだいいが、ネットという誰でも簡単に瞬時にアクセスできる手段を大衆に与えた途端どんなことが起こるかはなかなか予測できない。そういったトラヒックの急激な集中にも耐えられるようなネットワークでなければ社会のインフラにはなれないのである。インターネットが21世紀の通信基盤になるためにはまずそれを克服しなければならない。

常務取締役・情報通信研究グループ 通信事業研究担当
小沢 隆弘  e-mail:ozawa-t@icr.co.jp
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