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ICTエコノミーの今
2012年7月11日掲載

ICT経済の景気動向の見方

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情報通信総合研究所の経済分析チームは経済全体の中でICTに関連する部分を「ICT経済」として抽出して分析している。分析の中でも景気動向の分析については四半期ごとに「InfoCom ICT経済報告」としてまとめて公表しているが、ここには書き切れないことも多い。そこで、本コーナーでは各メンバーの問題意識や面白いトピック等を取り上げて毎月お伝えしていく。

まず第1回目にお届けするのは、経済分析チームがICT経済の景気動向をどういう視点で分析しているのかという「見方」である。見方を理解してから今後の記事を読んで頂くことでより深く理解して頂けるであろう。以下では分析フレームと分析に使用しているデータの見方を説明する。

ICT経済の景気動向分析フレーム

ICT経済の分析フレームは経済全体の分析と基本的には同じである。ただし、ICTに関連する統計データが十分に整備されていないため、可能な範囲で経済全体の分析と対応させている。分析フレームの概要をまとめた以下の図を使って解説しよう。

分析フレームの概要(まとめ)

まず、ICT経済の景気動向は(1)テレビや半導体等の財と(2)携帯電話通信やシステムインテグレーション等のサービスに分けて把握している。具体的には、財やサービスがどれだけ増減したのかをみることで、ICT経済の景気が良いのか悪いのかを判断している。これは経済全体の景気動向分析でGDPの成長率をみるのと対応している。
 次に、ICT経済の景気がなぜ良くなったのか又は悪くなったのかという変動要因を製品・サービスの需要側から分析する。これもGDPを消費(個人が購入する製品やサービス)や民間投資(民間企業が設備投資として購入する機械等)等の製品・サービスの需要側から要因を分解してみるのと対応している。GDP成長率が高まった場合に「消費がけん引した」等という記述が新聞記事等にみられるのは、上記の様な需要側からの変動要因分析の結果に基づいているからである。
 また、ICT経済の需要側からの分析は国内の消費、民間投資、公的投資と海外の輸出、輸入に大別される。ICT消費には個人が支払う携帯電話料金やパソコンの購入費、ICT輸入には海外から購入するスマートフォンや半導体等の金額が含まれている。
最後に、ICT消費等がどれだけ増減したのかをみることで、ICT経済の景気動向の要因を推測することができる。この際、輸入は海外から購入する分なので国内の製品・サービスに対してはマイナスの要因となる点には注意が必要である。また、民間投資と公的投資は四半期ごとに手に入るICT関連のデータがないため、将来の投資に対する機械の受注額データ(民需と官公需)を用いている。つまり、将来の投資の動きを先読みしていることになる。

データの見方(1)数値の意味

ICT経済の景気動向分析には政府統計を元に構築したICT関連経済指標というデータを用いている。データをまとめた以下の総括表を使って見方を説明しよう。

ICT関連経済指標

まず、一番上の「総合」の行が財・サービスを合わせたデータであり、ICT経済の景気動向を示している。数値(前年比)は前年に比べてICT関連の財・サービスが何%増減したのかを表しており、プラスの数値が大きいほど景気が良く、マイナスの数値が大きいほど景気が悪い状況であるといえる。最近の動向をみると、2011年1-3月のマイナス1.3%からマイナス幅が拡大した、つまり景気が悪くなったが、2012年1-3月はマイナス0.7%と大分持ち直したことが分かる。
次に、2行目以降は3つの行で1つのセットとなっており、「供給側」が財とサービスに分かれ、「需要側」が消費、機械受注(民需)、機械受注(官公需)、輸出、輸入に分かれている。機械受注(民需)が民間投資、機械受注(官公需)が公的投資に対応するデータである。

財のブロックを例に説明しよう。1番上の「前年比(%)」の行は経済全体の財が前年に比べて何%増減したかを表している。
これに対して、2番目の「(ICT・前年比(%))」の行はICT関連の財が前年に比べて何%増減したかを表している。1番目の数値と2番目の数値を対比することで、経済全体とICT関連の動向の違いが分かる。例えば、2012年1-3月をみると経済全体の財は前年より4.7%増えたのに対して、その中でテレビ等のICT関連財だけをみると前年より7.9%減少したことが分かる。
最後に、3番目の「(ICT・寄与度(%))」の行は、1番目の「前年比(%)」の内数であり、ICT関連の影響力を示している。2012年1-3月のマイナス1.4%というのは、財全体が4.7%増えたのに対して、ICT関連の財は1.4%分マイナスの影響を与えていたことを示している。つまり、ICT関連の財が減っていなければ(ICT・寄与度がゼロならば)、財全体は4.7+1.4=6.1%増加していたことになる。この寄与度をみれば、供給側の財や需要側の消費等の各側面において、ICT関連が経済全体にどの程度の影響を与えたのかを知ることができる。
 なお、供給側の財とサービスは実質GDPと同じく物価の影響を除いたデータであるのに対して、需要側のデータは物価の影響を除いていない点にはご留意頂きたい。

データの見方(2)グラフの見方

分析では分かりやすいように2種類のグラフを作成しているので、その見方を説明しよう。以下に第1のグラフの例として機械受注(民需)のものを挙げた。

機械受注に占めるICT関連、ICT関連以外の寄与度

図の折れ線は総括表における財等のブロックの1番目の「前年比(%)」の数値である。一方、棒グラフは折れ線の内訳を示しており、濃い色付きの部分が総括表各ブロックの3番目の「(ICT・寄与度(%))」の数値である。薄い色の部分(その他・寄与度)は「前年比(%)」と「(ICT・寄与度(%))」との差であり、ICT関連ではない自動車や産業機械の寄与度を示している。このグラフの濃い色付きの部分の面積が大きいほど経済全体に与えるICT関連の影響力が大きいということが分かる。
例えば、11W(2011年10-12月)〜12T(2012年1-3月)をみると、濃い色付きの部分の面積がそれ以前より小さくなっており、機械受注(民需)全体の増加に対するICTの影響力が小さくなったことが分かる。
ICT関連の影響力が分かると、次にその要因がどこにあるのかを知りたくなるであろう。それを確かめるために作成しているのが第2のグラフである。引き続き機械受注(民需)の例を以下に示した。

機械受注に占めるICT関連機種の寄与度

図の折れ線は第1のグラフの色の濃い部分、つまりICT・寄与度を示している。棒グラフは折れ線の内訳を示しており、これを見ることでICT・寄与度がなぜ増減したのかが分かる。
例えば、11W〜12Tで機械受注(民需)全体の増加に対するICTの影響力が小さくなった要因をみてみると、半導体製造装置の減少が足を引っ張っていたことが確認できる。
また、増加の要因は通信機にあることが分かるが、この背景にはスマートフォンユーザが増えて通信量が増加したことに対応して通信事業者が通信機の投資を増やそうとしていることがあると推察される。新聞記事等でスマートフォンユーザの増加や通信事業者の投資増加という情報を知ることはできるが、それだけでは経済全体に与える影響は分からない。その影響はICT関連経済指標というデータを用いることで初めて分かるのである。

おわりに

ここで説明した見方をおさえた上で、これから経済分析チームの各メンバーが毎月お伝えする記事を読んで頂ければ、ICT経済への理解を深めて頂けると思う。読者の方々に刺激を与えられるように鋭意努力を続けていく所存である。

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